tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

雇用調整助成金の意義と日本型雇用慣行

2020年04月28日 16時01分40秒 | 労働
雇用調整助成金の意義と日本型雇用慣行
 新型コロナウィルスの脅威による非常事態宣言、人と人の接触8割減目標の効果はどこまで効果を上げるでしょうか、連休明け以降の状態が待たれます。

 結果が良ければ、と期待しますが、問題は、効果継続には人の動きの制限が必須という状態は続くのだろうという点です。
 人の動きの制限は、当然に経済活動の停滞をもたらし、 雇用問題に直結します。

 そんな中で注目されているのが「雇用調整助成金」です。これは不況などで企業で人員の余剰が生じたとき、出来るだけ解雇を避けるために、雇用保険の時別会計から状況により従業員の給与の半分から3分の2を助成し、不況の中でも雇用の継続を可能にしようというシステムで、今回の新型コロナ禍では給与の90%助成されるとのことです。

 かつては広く企業に知られたこの制度も、最近風化が著しく、経営者が簡単に全員解雇などという、かつての常識では考えられないことが起きたりしています。

 そんなことで、雇用調整助成金について、その成り立ちと財源、戦後の経営者の社会意識など振り返っておきたいと思っています。

 雇用調整助成金という制度の起こりは、昭和30年代、石炭から石油へのエネルギー転換が日本でも現実となり、日本のエネルギーを支える基幹産業だった石炭産業の労働者の職場がなくなるという大変な問題でした。労働側からは石炭産業の継続といった声もありましたが、経営側はエネルギー革命は日本経済の構造転換のためには必須、問題は、石炭労働者の雇用の安定確保と考えたようです。

 政府の心配と経営者の先見的思考から「雇用促進事業団」という労働省直轄の団体が創られ、炭鉱離職者の雇用安定、そのための再訓練、産炭地からの住居移転に伴う雇用促進住宅の建設といった巨大プジェクトが実施に移されたのです。

 その財源は、雇用の安定を重視した経営者側が、雇用保険の使用者側負担率のみ2倍に引き上げ、それによって賄うという事でスタートしたと記されています。
 (雇用保険の料率は労使折半で、現状でも労働側1,000分の4、経営者(使用者)側1000分の8(4+4)、うち4が特別会計で雇用調整助成金の原資になるのでしょう)

 その後、好況時には、使用者側の拠出金は余るので、東京中野駅前のサンプラザをはじめ、多くの大都市のサンプラザやスパウザ小田原のような保養施設が事業団の手で創られ、その運営に赤字を垂れ流しったようですが、不況になると、雇用調整助成金が活躍していることは明らかなようです。

 今では、建設した箱物は処分され、雇用保険特別会計は、雇用安定と、能力開発(従業員の教育訓練)の2事業に絞られ、現状では雇用調整助成金に大活躍しようという事のようです。

 こうした経緯から見えてくるのは、戦後、日本の経営者が、如何に雇用の安定を重要な課題として考えていたかという事です。

 このブログでも、この意識から不況の時は労働側だけでなく、経営側も「雇用が第一義」と明言し、主要国の中でも 断トツに低い失業率を記録し続けているという現実につながり、世界も驚く日本の社会の安定、国民の安定した行動にもつながっていると思う所です。

 それにつけても、 リーマンショック以降の日本の経営者の在り方、労使関係の希薄化は、政府の掲げる「働き方改革」(雇用の流動化(不安定化)優先の推進に伴って、かつての従業員を大事にし、雇用の安定を第一義に掲げる日本的経営を希薄化し、ひいては、日本の文化社会の長所を捨て去る危険性をはらむものとして最も危惧されるところです。

 政府がだめなら、日本人、就中、日本の労使が、改めて日本的な文化、社会、経営、雇用慣行などの重視を国民運動に持っていくといった努力が必要な時ではないかと思う所です。