tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

矢張り出た「新しい資本論」

2014年09月12日 11時13分20秒 | 経済
矢張り出た「新しい資本論」
 フランスの経済学者のトマ・ピケティという人が、「21世紀の資本論」(邦訳はまだない)という本を書いて、世界中で論議を呼んでいるそうです。
 
 新聞紙上で紹介されたこの本に関する評論を見て、直感的に、「やはりこういう本が出る経済環境は世界的なんだな」という認識を持ちました。
 もちろん、フランス語の原著も、英訳本も読んではいませんが、日本の著名な学者の方々がご意見を述べられているのを読めば、著者の気持ちはわかるような気がします。

 資本論はドイツ人が書き、新しい資本論はフランス人が書いていますが、矢張りヨーロッパには、こうした社会正義を掲げる大著が出る素地・伝統があるのでしょうか。
 アメリカ社会からは、こういう本は出て来ないだろうといった感じがします。

 人が本を書く場合、その動機となったもの、本を書いて世に問いたかったことは基本的には「1つ」だと私は考えています。
 この本ではそれは多分、「資本主義の下では結局、富は集中し、貧富の格差は拡大してしまう」ということの実証だったたようです。
 そしてその説明として、格差拡大の原因は所得ではなく、資産の格差の拡大にあることを実証し、対策としての資産への累進課税が提唱されているのでしょう。

 こうした本が書かれることは大変大事です。マルクスの資本論は、社会主義、共産主義を生みましたが、資本主義にも大きな変革をもたらしました。その結果、資本主義(今でもこの名称が適切かどうかは別として)は大変身を遂げ、生き残ったのは資本主義の方だったことは「経営者とは何か」のシリーズで書かせて頂きました。

 資本主義の変身は、「経営者が誕生し、資本家は後退したこと」、「資本主義社会が福祉の概念を取り入れたこと」の2つに要約されるように思います。そしてシリーズでは最後に「新しい資本家の登場」という問題点に触れさせていただきました。

 ピケティの資本論は、資本が付加価値を生むのではなく、資本が資本を生む(カネがカネを生む)という資本原理主義、マネー資本主義、インカムゲインからキャピタルゲインへという動きによりよく当て嵌まるのかもしれません。
 アメリカで読者が多いということも頷けるような気がします。
 
 何時も述べますように、キャピタルゲインは単なる富の移転ですから、ゼロサムの中で一方に資本が集積すれば、格差拡大は当然です。
 
 社会主義、共産主義が敗退し、資本主義一色なりつつある世界で、資本主義の本卦帰り(人間が消えた資本原理主義への逆戻り)に警鐘を鳴らしている本という理解も出来るのではないでしょうか。
 前向きな優れた論争が、世界で広く起こることを期待したいと思います。