ごみ固形化燃料(RDF)は「夢のエネルギー」として、全国88自治体が導入した事業であったが、電力の自由化で売電価格が下がり、事業体の経営は苦しくなっていった。このような時に三重県のRDF貯蔵槽で発生した爆発事故は全国に衝撃を与えた。RDFの処理委託料がどんどんと上がっていき、関係自治体の負担が増していった。
松阪市の山中市長が新ごみ処理施設の稼働にあわせ、奥香肌伊勢資源化広域連合(RDF)からの離脱を表明してから残る3町からは不満が噴出している。松阪市が脱退すればその分の負担が残りの3町に覆い被さってくるからです。
2月議会の最終日の3月23日の本会議終了後に、山中市長は全員協議会を開催してRDF脱退の説明をします。
1)RDFとは
RDFとは、Refuse(ゴミ)Derived(由来する)Fuel(燃料)の略称で、家庭や事業から出るごみを押し固めて作った固形燃料です。形状は円柱形で、直径10~20㎜、長さ30~50㎜のペレット状です。RDFは乾燥圧縮して成形を行うため、通常のごみに比べて重量が1/2、体積が1/5、含水率が10%以下で、腐りにくく輸送がし易く、発電の熱源として利用できます。
2)三重県のRDF事業
三重県のRDF事業は北川正恭元知事の時代に始まりました。これまで市町村で焼却処分していた一般廃棄物を、リサイクルの観点から熱エネルギーとして活用しようとするもので、北川知事の強い思い入れで導入が決まり、三重県桑名郡多度町(平成16年に桑名市と合併)に総工費83億5000万円で建設された三重県企業庁のRDF焼却発電設備が、平成14年(2002)12月1日、稼働を開始した。北川知事はRDF全国自治体会議の会長も務めている。
しかしその北川知事は稼働半年後の平成15年(3003)4月に三重県知事を退任し、野呂昭彦氏が後任の知事に就任した。
3)RDF貯蔵タンクの爆発事故
三重県多度町のRDF貯蔵槽で平成15年(2003)8月火災爆発事故が発生した。7月中旬頃から貯槽内RDFの温度が異常に高まり、8月14日に処理中の作業員4名が負傷した。また8月19日には爆発事故が発生し、消火に当たっていた消防士2名が死亡、作業員1名が負傷した。消火活動は45日間にわたり、桑名市消防本部、三重県広域応援隊、名古屋市消防局などの特殊部隊が消火にあたる。爆発の原因は水分を含んだRDFが発酵、不完全燃焼で発生した一酸化酸素が爆発したとされる。
平成16年(2004)に焼却発電設備は再稼働しました。
4)三重県の稼働中のRDF化施設
現在三重県内で稼働中のRDF化施設は次の7施設で、このうち志摩市は平成26年(2014)3月で撤退する。
◆紀北町 稼働開始12年4月 関係自治体 紀北町
◆香肌奥伊勢資源化広域連合 稼働開始13年4月 関係自治体 松阪市、多気町、大台町、大紀町
◆桑名広域清掃事業組合 稼働開始14年12月 関係自治体 桑名市、いなべ市、木曽岬町、東員町
◆伊賀市 稼働開始14年12月 関係自治体 伊賀市
◆南牟婁清掃施設組合 稼働開始14年9月 関係自治体 御浜町、紀宝町、熊野市
◆紀北町 稼働開始14年12月 関係自治体 紀北町
◆志摩市 稼働開始14年12月 関係自治体 志摩市
詳しくは「三重県の環境と森林」のページをご覧下さい。
5)香肌奥伊勢資源化広域連合の設立
平成10年7月1日に、地方自治法第284条第3項の規定により、平成10年9月1日から廃棄物(し尿を除く)施設の設置等に関する事務を処理するための、香肌奥伊勢資源化広域連合の設立協議が整った。参加自治体は飯南郡飯南町、飯高町、多気郡大台町、勢和村、宮川村、度会郡大宮町、紀勢町、大内山村8町です。
この施設は平成13年4月から稼働しました。
施設名 香肌奥伊勢資源化広域連合香肌奥伊勢資源化プラザ(ごみ固形燃料化施設)
年間処理量(t/年度) 1890
燃料製造量(t/年度) 1202
処理対象廃棄物 可燃ごみ
処理能力(t/日) 44
使用開始年度 2001(平成13年)
燃料供給先の利用状況 燃料用
香肌奥伊勢資源化広域連合の稼働は平成32年度までとなっています。
6)処理委託料の推移
1995年の県の計画ではRDFによる発電で採算がとれ、市町の処理委託料はゼロのはずであった。しかし同年の電力自由化で売電価格が下がり、県は事業開始前にRDF1トン当たり4500円の処理委託料を市町に求めたが反発にあい、灰処理費用の名目で、3790円で話しがついた。その後処理委託費は値上がりし6130円となったが、平成15年に起きた爆発事故後安全対策費がかさみ、平成21年(2009)からは毎年550円ずつ値上がりし、平成28年(2016)には9420円になる予定であった。
ところが平成23年4月5日の三重県RDF運営協議会総会で収支計画の見直しが行われ、今後のRDF搬入見込量が現計画の90%程度にとどまる等の要因により、平成20年度から平成28年度までの収支不足見込みが、現収支見込額の19億円から4.1億円悪化して23.1億円となり、平成23年度からの処理委託料が現行の毎年550円/tアップから923円/tアップとなり28年には10908円/tになる。
7)三重県のRDF発電の終了計画
県は平成19年(2007)に、桑名市多度町のRDF焼却発電施設が耐用年数を迎え、委託業者との契約が切れる平成28年(1016)に撤退することを表明した。これに対して市町側が一方的だと反発し、その後県と市町の首長らによるRDF運営協議会で協議して、平成32年度(2020)まで続けることで合意しました。
8)松阪市の広域連合からの離脱の申し入れ
松阪市の山中市長は平成22年(2010)4月16日の香肌奥伊勢資源化広域連合議会の臨時会で、松阪市の新ごみ処理施設の稼働と同時に同連合から正式に離脱をしたい意向を表明しました。この時山中市長は『平成32年までは協定書があり、松阪市としても公債費支払いの役割を負うが、32年以降は離脱したい。』と述べています。
平成22年4月23日の山中市長の定例記者会見で『自分たちだけで決められる部分でもありませんし、当然それこそ他の市町との兼ね合いもあります。ただ松阪市として、ごみ処理の一元化を27年度以降に進めていくという方向性と、遅くとも33年度以降は離脱という形は、明確には話をさせていただいています。』と述べています。
平成24年1月23日松阪市の山中市長は香肌奥伊勢資源化広域連合の久保行央連合長(多気町長)に対して文書で脱退届けを提出。これに対して、久保連合長から山中市長に対して、『今後、構成市町並びに連合議会で協議を行って行きたいと思いますので、ご協力お願いいたします。』と返信があった。
9)久保多気町長、尾上大台町長が松阪市にごみ処理の受け入れを要請
平成24年1月31日に定住自立圏構想の関係市町長協議が松阪市役所で行われ、山中市長、久保多気町長、明和中井町長、尾上大台町長が出席し、今後のスケジュールや協定内容について確認しました。この席上、久保町長は「ごみ処理、減量化対策」のため、県のRDF事業が終了後、多気町、大台町、大紀町のごみ処理を松阪市が受け入れる仕組み作りしてほしいと申しいれた。これに対して山中市長は平成27年から新ごみ処理施設が稼働するが、地元との協議の中で、他自治体のごみは受け入れない方針と、同年からRDF事業から脱退すると表明し、地元合意の問題と処理能力の説明をして理解を求めた。(夕刊三重 2月1日の記事より抜粋)
10)松阪市が離脱して公債費しか負担しなかった場合の3町の負担増は10億円
同広域連合の市町分担金は、公債費(定率割額20%と人口割額80%)と経常経費(定率割額20%と人口割額30%と利用割額50%)で構成されているが、山中市長はこのうち松阪市は公債費しか負担しないとしている。経常経費の内のごみ投入量にあたる利用割額の負担をしないのはわかるが、定率割額や人口割額を松阪市が負担しないと、それが残った3町に負担となって被さってきます。
夕刊三重紙の平成24年3月14日付け記事によると、松阪市が離脱して公債費しか負担しなかった場合の3町の負担増は、多気町の試算によると10億円になるということです。
以下、夕刊三重紙の2012年3月14日の紙面からの抜粋です。
市が経常経費など払わず脱退なら3町村負担10億円 多気町が試算
広域連合離脱表明をめぐる山中市長の手順や離脱内容について、久保町長は「松阪市から、2年前に口頭で広域連合を離脱したいという申し入れがあった。山中市長は、関係町長にきめ細やかに説明してきたと言ったが、今年1月まで中身の話はなかった。正式な文書表明もなかった」と〝山中流〟の進め方に不満を漏らした。
山中市長が、離脱の際には、負担金のうち公債費しか支払わないと発言していることに「町長、関係議員もあぜんとした。何のための広域連合だったのか。(枠組みを)まったく無視され、崩壊させるような内容だった」と話した。
経常経費や施設撤去費、県協議会脱退負担金などを一切支払わない「松阪市案」を町が試算したところ、20年までに最大で計約10億円が3町の負担に上乗せされることになるという。
久保町長は松阪市長の姿勢について「われわれの町で10億円単位の負担を求められるようなことは納得できない」と反論し、「今後はルールに従い、関係町の求めに応じ協議の場を持ち、負担金や撤去費、分担金の中の割合をどうするのか話し合わなければならないと思う」と話した。
11)広域連合脱会のルール
地方自治法291条の3規定、地方自治法の広域連合の「組織、事務及び規約の変更 (第291条の3)」及び 「議会の議決を要する協議(第291条の11)」では
(組織、事務及び規約の変更)
第291条の3 『組織する地方公共団体の数を増減し若しくは処理する事務を変更し、又は広域連合の規約を変更しようとするときは、原則として関係地方公共団体の協議によりこれを定め、加入状況により総務大臣か都道府県知事の許可を受けなければならない』とあります。
(議会の議決を要する協議)
第291条の11 『第284条第3項、第291条の3第1項及び第3項、前条第1項並びに第291条の13において準用する第289条の協議については、関係地方公共団体の議会の議決を経なければならない。』とあり、
この規定では広域連合の団体数の増減(加盟・脱退)は関係自治体で話し合い、最終的には同議会、香肌奥伊勢資源化広域連合でいえば松阪市議会、多気町議会、大台町議会、大紀町議会の議決が必要となります。
まとめ
松阪市の同広域連合からの脱退には、こちらからの条件を示して脱退を宣言すれば、脱退できるということにはならないようである。地方自治法のルールから見ても、またこれまで共に組織の運営をしてきた自治体同志としても、各々が納得する十分な話し合いが必要であろう。
RDF事業が終了したあとの施設の撤去費に約7億円かかるということであるが、これらの分担金を含めて約10億円ものお金が、松阪市の脱退によって小さな3つ町に被さってくることは、3町にとっても大変なことであろう。
松阪市の新ごみ処理施設へ3町からごみの投入の申し入れがあったが、今の段階では難しいだろうと思う。広域消防組合や広域衛生組合のようなかたちも考えられるが、地元協議や機種選定の前なら、また違った展開があったかも知れない。
広域連合に加盟する松阪市の近隣の3町(多気町、大台町、大紀町)や、明和町とはこれからも長い付き合いをしていかなくてはならない。円満な解決が望まれる。