私の恵庭散歩シリーズ第一巻「恵庭の彫像」は,恵庭市内の野外彫刻を取り上げた最初の出版物である。これまで,恵庭市内の彫像については一覧表さえ見当たらない。本書は,全ての作品に写真,所在地図を付け,解説文も分かり易い。A5版,68ページと携帯にも便利なサイズとなっている。
本書の「はしがき」「目次」「あとがき」を引用しよう。
<はじめに>
ある日,自分が住んでいる街をよく知らないことに気づいた。この地に居を構えてから四半世紀が経過したにも関わらず,である。仕事の関係で十勝・上川・道南に住み,果ては南米アルゼンチン,パラグアイに暮らすなど,長い間この家を留守にしていたことが原因かも知れない。札幌や長沼に通勤していた頃も,早朝に家を出て夕方遅く帰宅する日常だったので,この街を鑑みる余裕がなかったのだ。
ある日,この街を知ろうと思った。仕事から解放されたのを機会に恵庭散歩を始めると,これが結構面白い。「花のまち」を標榜するだけあって,ガーデニングに対する市民の取り組みは熱心だし,図書館,郷土資料館,総合体育館など高度成長期に整備した施設も立派なものだ。市民憩いの公園も整備されている。農業や商業など諸産業も頑張っている。だが待てよ,何かが物足りない・・・ふと,思った。
ある日,この街の歴史を知ろうと散歩に出た。開拓の歴史を刻む記念碑,神社仏閣を訪ねた。芸術の証しはないかと彫像を探し求めた。歴史については恵庭市史や恵庭昭和史研究会の既刊資料が,記念碑については郷土資料館ホームページが参考になったが,十分とは言い難い。彫像については一覧表さえないことを知った。文化が脆弱なのだ。時代は超高齢社会,いわば成熟社会だ。多くの方々が健康のために歩いている。散歩の途中に,彫像の芸術性に触れ,記念碑や神社仏閣に歴史を偲ぶことが出来れば,散歩は一層楽しくなるに違いないと思った。
ある日,私の体験を「恵庭散歩」シリーズとして取りまとめようと考えた。本書を手にした恵庭の子供らや若者が,故郷を知り誇りに思うことが出来れば,これに勝る喜びはない。この街を訪れた人々が,恵庭の魅力探訪の道標として本書を手に取って頂ければ幸いである。
本書は「恵庭散歩」の第一巻,題して「恵庭の彫像」である。市内の野外彫刻を中心に取りまとめた。街角の彫刻は行き交う人の心を和ませる。手を触れた子供らの情緒を育む。例えば,恵み野駅前から「やすらぎストリート」「花さんぽ通り」へと彫像が置かれたら,なんと素晴らしいことだろう。本書の発刊は,恵庭在住一市民の遊び心から始めたものだが,故郷を愛する気持ちだけは失うまいとの思いを込めている。
<目 次>
1.恵庭大橋に立つ季節の乙女像:鈴木吾郎「こぶし」「もみじ」と本間武男「夏の日」「雪の朝」
2.恵庭市立図書館にある鈴木吾郎の「ふえ」「YUKA17」「YUKA」「女・風髪」
3.恵庭市立図書館にある山名常人「進取の像」と中村矢一「望」「はるかぜ」
4.恵庭開拓記念公園にある竹中敏弘「拓望の像」と二口大然「二宮尊徳幼時の像」
5.ユカンボシ川河畔公園彫刻広場の作品:佐藤忠良「えぞ鹿」,渡辺行夫「ドン・コロ」,植松圭二「樹とともに-赤いかたち」,山本正道「時をみつめて」,丸山隆「Cube」,山谷圭司「にぎやかな遡行」
6.恵庭市総合体育館の壁画彫刻,竹中敏弘「躍動と天然の美」と鈴木吾郎「こぶし」「もみじ」
7.恵庭駅前の少女像,山本正道「すずらんに寄せて」
8.恵庭市民会館前庭の「平和の像」
9.茂漁川のレリーフ「鮭の一生」
10.めぐみの森公園にある本田明二の「道標-けものを背負う男」
11.大安寺山門に立つ「金剛力士像」
12.恵庭市民会館にある杉村孝の「双体童(わらべ)像YÛKÔ」
13.坂 坦道の初期作品,島松小学校「よい子・つよい子像」
14.路傍に祀られるお地蔵さん:鈴木家の地蔵(島松沢),山神(島松沢),六地蔵(上山口),八十八か所地蔵(弘隆寺),六地蔵(大安寺),六地蔵(龍仙寺),交通安全地蔵(島松沢),交通安全守護地蔵尊(和光),交通安全の碑(上山口)
<あとがき>
「恵庭市内にどんな野外彫刻があるのだろう?」と彫像を探訪する私の恵庭散歩は,これまでに足掛け三年を要した。まだまだ気づかない作品はあるだろうが,ひとまずここに取りまとめることにした。
恵庭市は「花のまち」を標榜するだけに,四季の草花が彩を添えてはいるが,率直に言って街の風情は奥行きが無い。歴史が浅く,新興住宅地が多い恵庭の宿命と言えなくもないが,もう少し芸術作品に触れる環境を醸成し,潤いのある「まちづくり」を念頭に置くべきだろう。花ロードに彫像があり,街灯や店の看板にセンスが感じられ,ウインドウに作品が飾られる。花と緑に芸術が調和した街,誰もが誇りに思える恵庭でありたい。