竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉雑記 色眼鏡 その十五 初春の雪

2013年01月01日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 初春の雪

 新年明けましておめでとうございます。皆様に本年が良い年でありますよう、祈願いたします。そして、本年もまた、このブログを御贔屓にしていただきますよう、お願いいたします。
 さて、万葉集には新年初春の雪を寿ぐ歌があります。今回はその三首を紹介します。最初の歌が葛井連諸會のもので、残りの二首が大伴家持のものです。なお、最初の葛井連諸會の歌が元正太上天皇御在所で奏上されたとき、家持もまたその宴に同席していましたから、その歌もまた家持には深く縁のある歌です。
 歌の鑑賞に先だって家持の年譜を紹介しますと、集歌3925の歌が詠われる前年の天平17年(745)に従五位下に叙せられ大夫の仲間入りをはたし、宮内少輔の内示があったものと思われます。その関係での元正太上天皇御在所での宴に出席したものと思われます。
 そして、この宴の後、五月に越中国守として赴任します。推定廿八歳と云う年齢からすると、早い出世でしょうか。
 次に、集歌4229の歌が詠われた天平勝寶三年、この時、家持は奈良の都での少納言の内示を受けての歌と思われます。少納言は太政官のメンバーですから同じ従五位下相当の少輔に比べると一段高い役職と考えます。この時、推定で三十三歳と思われます。
 最後の集歌4516の歌が詠われたのは天平宝字三年です。天平宝字元年に起きた橘奈良麻呂の乱の後始末と余韻が収まり、乱の首謀者の一角を占めていたとして大伴家として粛清され大打撃を受けましたが、家持は天平宝字二年六月に因幡国守に任命され、大打撃からの回復を図っていた時期にあたります。任命と任地への赴任期間を考えますと、集歌4516の歌は家持が橘奈良麻呂の乱で干されていたあと、およそ四十一歳で官界に復帰して間無しの時期にあたります。
 こうして見てみますと、新年初春に雪が降った時、大伴家持には佳き事の予兆の実感があったものと思われます。
 因みに因幡国守の後、武門の家の子として不穏な薩摩国守を一時歴任しますが、九州の要職である大宰府少弐を経て、左中弁兼中務大輔、式部大輔・左京大夫・衛門督と京師の要職や上総・伊勢などと大国の国守を歴任します。つまり、集歌4516の歌以降、橘奈良麻呂の乱での大打撃を挽回して有望な中央官僚として出世街道を邁進します。

 このように、新年初春の雪は、非常に、おめでたいもののようです。


天平十八年正月、白雪多零、積地數寸也。於時、左大臣橘卿率大納言藤原豊成朝臣及諸王諸臣等、参入太上天皇御在所 (中宮西院)、供奉掃雪。於是降詔、大臣参議并諸王者、令侍于大殿上、諸卿大夫者令侍于南細殿、而則賜酒肆宴。勅曰、汝諸王卿等、聊賦此雪各奏其謌
標訓 天平十八年正月に、白雪が多(さは)に零(ふ)りて、地(つち)に積もること數寸なり。この時に、左大臣橘卿の大納言藤原豊成朝臣及び諸王(もろもろのおほ)・諸臣(もろもろのおみ)等(たち)を率(ひき)いて、太上天皇の御在所 (中宮西院)に参入(まゐ)りて、掃雪(はきゆき)に供(つか)へ奉(まつ)りき。是において詔を降し、大臣(おほまえつきみ)・参議并びに諸王(おほきみ)は、大殿の上に侍(さむら)ひしめ、諸卿(もろもろのきみ)・大夫(まえつきみ)は南の細殿に侍ひしめ、則ち酒を賜ひて肆宴(とよのあかり)したまふ。勅(みことのり)して曰はく「汝(いまし)諸(もろもろの)王卿等(おほきみたち)、聊(いささ)かにこの雪を賦(ふ)して、各(おのおの)、その謌を奏(まう)せ」とのりたまふ。

その應詔謌より選出
葛井連諸會應詔謌一首
標訓 葛井連諸會の詔に應(こた)へたる謌一首
集歌3925 新 年乃婆自米尓 豊乃登之 思流須登奈良思 雪能敷礼流波
訓読 新しき年の初めに豊(とよ)の年しるすとならし雪の降れるは
私訳 新しい年の初めに、豊作の年となる兆しなのでしょう。雪が降ってくるのは。


天平勝寶三年
標訓 天平勝寶三年
集歌4229 新 年之初者 弥年尓 雪踏平之 常如此尓毛我
訓読 新しき年し初めは弥年(いやとし)に雪踏み平(なら)し常かくにもが
私訳 新しい年よ、その初めは毎年に、豊作を約束する雪を踏み均して、いつもこのように宴をしたいものです。
右一首謌者 正月二日、守舘集宴。於時零雪殊多、積有四尺焉。即主人大伴宿祢家持作此謌也
注訓 右の一首の謌は 正月二日に、守(かみ)の舘に集ひて宴(うたげ)せし。時に零(ふ)る雪の殊(こと)に多(さは)なり、積みて四尺あり。即ち主人(あるじ)大伴宿祢家持の此の謌を作れり


三年春正月一日、於因幡國廳、賜饗國郡司等之宴謌一首
標訓 三年春正月一日に、因幡國(いなばのくに)の廳(ちやう)にして、饗(あへ)を國郡(くにのこほり)の司等(つかさたち)に賜(たま)はりて宴(うたげ)せし謌一首
集歌4516 新 年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 伊夜之家餘其騰
訓読 新しき年の始(はじめ)の初春の今日降る雪のいやしけ吉事(よこと)
私訳 新しい年の始めの初春の今日、その今日に降るこの雪のように、たくさん積もりあがれ、吉き事よ。
注意 標の三年とは天平宝字三年、759年のことです。

 鑑賞として、新年初春の雪の歌としては集歌4516の家持の歌が有名ですが、歴史としては葛井連諸會の應詔謌を聞いて以来、新年に雪を見ると佳いことが起きると、家持はジンクスのようにしてこのテーマを大切にしていたと考えるのが良いのではないでしょうか。

 新年早々、酔論になりましたが、改めて、今年も皆様が幸福でありますことを確信しております。
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