街場の教育論 内田樹 ミシマ社
内田氏は現在引っ張り凧の哲学者で、神戸女学院の看板教授だ。本書は教員側に立って、有象無象の誤謬に満ちた教育論を全て退けているのが痛快だ。全国の教員の何割かでも購入すれば、ベストセラー間違いなしだ。
氏は言う、教育は惰性の強い制度である。入力の変化があってから、出力の変化が結果するまで長い時間がかかる。早くて数年、場合によっては十年、二十年。為政者が就任すると、とりあえず教育問題を優先的な政治課題に掲げるのはこのためなのだ。すなわち、教育に関しては、どのような政策を採用しても、失政を咎められることはないからだと。蓋し、至言である。安部前首相然り、どこかの某知事然り。前首相に至っては、教員免許更新という時間と金の無駄としか言いようの無い馬鹿げた法律を作ってしまった。これで指導力のない教員を排除できると本気で思っているのだろうか。免許更新時の講習なんて、採用試験を受かる力があれば簡単にクリアーできる。だいたい講習する側の大学の講師の力量が、受講する側の教員の力量を下回るのではないかと、ひそかに危惧している。また某知事は文部科学省の学力試験の結果が悪かった事で、教育非常事態宣言などという恐ろしい宣言をして、教育委員二名の首をすげ替えた。そして百マス計算や数学の計算力をつける専門家を呼んで来て、捲土重来を期す意志を表明した。計算力をつけるのが学力向上だと即断するところが、能天気だ。更に早寝、早起き、朝ごはんを定着させるのが、学力向上の必要条件だというのを聞くに至っては、新聞配達少年の合言葉じゃあるまいしと涙が出てきた。ああいうことをしらふで言える人間を私は信用しない。知事も教育委員も技術論にとらわれすぎて、教育の不易の部分を全然理解していない。こういう手合いが、昨今の教育コメンテーターとして幅を利かすものだから、一般の民衆はコロッと騙されてしまうのだ。
本書は第一講から第十一講まで教育についての鋭い考察が披瀝されて、大いに勇気づけられる。ぜひご一読願いたい。