読書日記

いろいろな本のレビュー

街場の教育論 内田樹 ミシマ社

2008-12-03 22:01:57 | Weblog

街場の教育論 内田樹 ミシマ社



 内田氏は現在引っ張り凧の哲学者で、神戸女学院の看板教授だ。本書は教員側に立って、有象無象の誤謬に満ちた教育論を全て退けているのが痛快だ。全国の教員の何割かでも購入すれば、ベストセラー間違いなしだ。
 氏は言う、教育は惰性の強い制度である。入力の変化があってから、出力の変化が結果するまで長い時間がかかる。早くて数年、場合によっては十年、二十年。為政者が就任すると、とりあえず教育問題を優先的な政治課題に掲げるのはこのためなのだ。すなわち、教育に関しては、どのような政策を採用しても、失政を咎められることはないからだと。蓋し、至言である。安部前首相然り、どこかの某知事然り。前首相に至っては、教員免許更新という時間と金の無駄としか言いようの無い馬鹿げた法律を作ってしまった。これで指導力のない教員を排除できると本気で思っているのだろうか。免許更新時の講習なんて、採用試験を受かる力があれば簡単にクリアーできる。だいたい講習する側の大学の講師の力量が、受講する側の教員の力量を下回るのではないかと、ひそかに危惧している。また某知事は文部科学省の学力試験の結果が悪かった事で、教育非常事態宣言などという恐ろしい宣言をして、教育委員二名の首をすげ替えた。そして百マス計算や数学の計算力をつける専門家を呼んで来て、捲土重来を期す意志を表明した。計算力をつけるのが学力向上だと即断するところが、能天気だ。更に早寝、早起き、朝ごはんを定着させるのが、学力向上の必要条件だというのを聞くに至っては、新聞配達少年の合言葉じゃあるまいしと涙が出てきた。ああいうことをしらふで言える人間を私は信用しない。知事も教育委員も技術論にとらわれすぎて、教育の不易の部分を全然理解していない。こういう手合いが、昨今の教育コメンテーターとして幅を利かすものだから、一般の民衆はコロッと騙されてしまうのだ。
 本書は第一講から第十一講まで教育についての鋭い考察が披瀝されて、大いに勇気づけられる。ぜひご一読願いたい。

ダルフールの通訳 ダウド・ハリ ランダムハウス講談社

2008-12-02 06:04:59 | Weblog

ダルフールの通訳 ダウド・ハリ ランダムハウス講談社



 ダルフールとは、1956年イギリスとエジプトの共同統治領から独立したスーダン共和国の地名である。バシール軍事政権はクーデターで政権を握り、少数派のアラブ系住民を優遇しジャンジャウイードと呼ばれる殺人騎馬部隊を組織して、多数派の非アラブ系住民を殺し、村を焼き払わせていると言われている。
 2003年四月にダルフールの反政府組織はダルフールの独立を叫び、政府の軍事基地を攻撃、ダルフールの非アラブ系住民の村々を襲っていた飛行機やヘリコプターを粉砕した。この報復としてバシール大統領は遂にアラブ系ジャンジャウイードー武装集団に攻撃のゴーサインを下した。アラブ人武装集団はアフリカ土着部族の村々を攻撃し焼き払い始め、大量殺戮へと発展した。これがダルフール集団虐殺の真相である。
 本書はアフリカ土着のザガワ族出身のダウド・ハリがダルフールに入ってくる欧米のジャーナリストの通訳として体験した、スーダンの暗部を描いたものだ。
 アフリカの旧植民地が独立する。その後部族間の対立が表面化し、邪悪な独裁者が現れ私利私欲に走る。スーダンの場合、南部に油田が発見されたことで、利権を巡る争いが一層助長された。また紛争が起こると大量の武器が投入される。ここで死の商人が暗躍するわけだ。彼らは例外なく先進国の人間だ。アフリカの紛争地の図式はざっと以上の通りだ。いつも犠牲になるのは一般の住民である。この悪の連鎖はどう断ち切ったらいいのか。