読書日記

いろいろな本のレビュー

戦場の掟 スティーヴ・フアイナル 講談社

2009-11-13 21:11:02 | Weblog

戦場の掟 スティーヴ・フアイナル 講談社



 泥沼化するイラク戦争。アメリカはベトナム戦争の教訓を生かせず、またも無益な殺戮の泥沼のなかでのた打ち回っている。日本に目を移せば、イラク復興にいかに協力するか、マスコミは民主党の煮え切らない態度にイライラを募らせるような報道を繰り返しているが、本当にどうかしている。アメリカ一辺倒なのはメディアの側であることが、最近の報道ぶりを見てはっきりした。沖縄の普天間基地の移転問題も然り、アメリカ寄りの報道しかしていない。メディアの幹部はみんなアメリカかぶれなのか。これでは小泉構造改革を始めとする、新自由主義経済路線を批判する資格は無い。本書はアメリカのイラク戦争の内実を民間警備会社の傭兵にスポットを当てて暴き出したもので、2008年度ピューリッツアー賞(国際報道部門)を受賞した。
 アメリカは自軍の兵力の不足を補うために、民間の警備会社に軍の一部の役割を担わせている。この傭兵に応募する連中は高い給料に惹かれてやってくるわけで、高い志があるわけではない。従ってモラルのない無法者が武器を持って、罪もないイラクの人間を殺戮することも多々あるわけである。彼ら自身も正規のアメリカ軍兵士ではないため、イラクの反政府ゲリラに襲われるリスクもあるわけで、文字通り命を懸けた警備会社勤務と言える。スーパーや工事現場の交通整理、あるいはビルのガードマンとはわけが違う。本書は何人かの傭兵に応募した若者の軌跡を追って、彼ら(アメリカ人4人、オーストラリア人1人)が2006年11月16日、イラクのゲリラに拉致され(クレセント拉致事件)、一年半後に無残な死体となって帰って来るまで家族の焦燥と絶望を描き、戦争の非人道性を極限まで際立たせる。ノンフイクションとは言え、まるで小説を読むようなリアリティがある。イラクで一稼ぎと勇んで飛んで行ったが、稼いだ金を使うことが叶わなかったわけだ。戦争による経済活動は武器などの需要を生み出し、死の商人が跋扈する。傭兵で儲ける警備会社は隙間を狙ったニッチ産業と言える。何でもカネに換えてやろうという発想はさすがアメリカだ。サブプライムローンと同じ発想だ。ここらで一度人間の尊厳、正義とは何かを見つめなおす必要があるのではないか。そのアメリカに踊らされて来た日本の民度の低下も由々しき問題である。モラルなき社会は滅びるしかない。