Ma Vie Quotidienne

一歳に二度も来ぬ春なればいとなく今日は花をこそ見れ

読書  完璧な病室  小川洋子 著

2012-02-16 18:15:08 | Book
結構前に読み終わっていたんですが・・・・(汗)



小川洋子さん初期の中編作品が4つおさめられています。

わたし、今まで読んだ小川洋子の本でこれが一番好きかも。

なんていうんでしょう、このフランス映画的な感じ。
起承転結がはっきりしてなくて淡々飄々と進む感じとか、妄想的な感じとか。

生と死、本能と理性、純粋と残酷、清と汚、正常と異常、そういうものって、
誰でもそれらを対で持っていて
その境目は曖昧で
ある危なげなバランスで保たれているのに、
ちょっとしたきっかけで、バランスの配分が変わり、
まるでスッとパラレルワールドに入り込んだかのように別の自分を体験する。
そんな人間のエグさを自分も持っているってことを、
緻密な心理や身体の描写をもって気付かせてくれる作品たちです。

子どもの頃とか、まあ20代のころとかって、
そういうバランスがまだ作られてなくて、
残酷にヒトやその他の生き物やモノを傷付けたり、
下手したら死んじゃうような無茶をしてみたり、
自分以外がものすごく不潔に思えたり、
逆に自分だけが下らないものの様に思えたり、
まあそんなグジャグジャを抱えていてるもんだと思います。

でもなんかいろんな人や境遇や音楽や景色や出来事なんかとの出会いから
自分なりのバランスが安定していって、
その安定化作業はある程度で止まってしまうこともあるし、
自分次第では、
より社会的に好ましいというか
陽の方向でバランスがとれるように一生努力し続けることも出来るけど、
でもやっぱり根本的なところは、
小さい子どもの頃に培われるものなのかな思います。

この本の主人公たちも、
母親が精神疾患で父親もいなくなったとか、
母親が男作って逃げて父親は病気で死んだとかそんな感じで、
フィクションとはいえ、
やはりそういう環境因子は
子どもの心に良かれ悪かれなんらかの影を落とすのだろうなと思いました。

そんなに大それたことじゃなくっても、
これだけは許せないとかそういう価値観、
わだかまっている消えそうで消えない小さな火種、
誰でも持っている弱さ。
そういうものになって自分の中に残る。

他をひどく傷つけない程度ならそれは「個性」として受け入れられるのだろうけど・・・。
そしてみんなが他の人の「個性」に対して寛容でいられたら、
いろんな嫌な思いをしなくて良いのだろうけど・・・。