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最高裁判例
事件番号 ・・・・・・・・平成22(受)1209
事件名・・・・・・・・・・ 建物明渡請求事件
裁判所 ・・・・・・・・・・最高裁判所第一小法廷
裁判年月日 ・・・・・・平成24年9月13日
原審裁判所 ・・・・・・東京高等裁判所
原審事件番号 ・・・・平成21(ネ)6078
原審裁判年月日 ・・平成22年3月16日
【事案の概要】
本件は、建物を上告人に賃貸した被上告人が、本件建物の賃貸借は借地借家法38条1項所定の定期建物賃貸借であり、期間の満了により終了したなどと主張して、上告人に対し、本件建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求める事案である。
【裁判要旨】
借地借家法38条2項所定の書面は、賃借人が、その契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要する。
平成22年(受)第1209号 建物明渡請求事件
平成24年9月13日 第一小法廷判決
主 文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告人の上告受理申立て理由について
1 本件は,第1審判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を上告人に賃貸した被上告人が,本件建物の賃貸借(以下「本件賃貸借」という。)は借地借家法(以下「法」という。)38条1項所定の定期建物賃貸借であり,期間の満了により終了したなどと主張して,上告人に対し,本件建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求める事案である。上告人は,同条2項所定の書面を交付しての説明がないから,本件賃貸借は定期建物賃貸借に当たらないと主張している。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,不動産賃貸等を業とする会社である。
上告人は,貸室の経営等を業とする会社であり,本件建物において外国人向けの短期滞在型宿泊施設を営んでいる。
(2) 被上告人は,平成15年7月18日,上告人との間で,「定期建物賃貸借契約書」と題する書面(以下「本件契約書」という。)を取り交わし,期間を同日から平成20年7月17日まで,賃料を月額90万円として,本件建物につき賃貸借契約を締結した。本件契約書には,本件賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了する旨の条項(以下「本件定期借家条項」という。)がある。
(3) 被上告人は,本件賃貸借の締結に先立つ平成15年7月上旬頃,上告人に対し,本件賃貸借の期間を5年とし,本件定期借家条項と同内容の記載をした本件契約書の原案を送付し,上告人は,同原案を検討した。
(4) 被上告人は,平成19年7月24日,上告人に対し,本件賃貸借は期間の満了により終了する旨の通知をした。
3 原審は,上記事実関係の下で,次のとおり判断して,本件賃貸借は定期建物賃貸借であり,期間の満了により終了したとして,被上告人の請求を認容すべきものとした。
上告人代表者は,本件契約書には本件賃貸借が定期建物賃貸借であり契約の更新がない旨明記されていることを認識していた上,事前に被上告人から本件契約書の原案を送付され,その内容を検討していたこと等に照らすと,更に別個の書面が交付されたとしても本件賃貸借が定期建物賃貸借であることについての上告人の基本的な認識に差が生ずるとはいえないから,本件契約書とは別個独立の書面を交付する必要性は極めて低く,本件定期借家条項を無効とすることは相当でない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
期間の定めがある建物の賃貸借につき契約の更新がないこととする旨の定めは,公正証書による等書面によって契約をする場合に限りすることができ(法38条1項),そのような賃貸借をしようとするときは,賃貸人は,あらかじめ,賃借人に対し,当該賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて,その旨を記載した書面を交付して説明しなければならず(同条2項),賃貸人が当該説明をしなかったときは,契約の更新がないこととする旨の定めは無効となる(同条3項)。
法38条1項の規定に加えて同条2項の規定が置かれた趣旨は,定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って,賃借人になろうとする者に対し,定期建物賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ,当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず,説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解される。
以上のような法38条の規定の構造及び趣旨に照らすと,同条2項は,定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って,賃貸人において,契約書とは別個に,定期建物賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上,その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。そして,紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると,上記書面の交付を要するか否かについては,当該契約の締結に至る経緯,当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく,形式的,画一的に取り扱うのが相当である。
したがって,法38条2項所定の書面は,賃借人が,当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず,契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。
約書とは別個独立の書面であるということはできず,他に被上告人が上告人に書面を交付して説明したことはうかがわれない。なお,上告人による本件定期借家条項の無効の主張が信義則に反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。
そうすると,本件定期借家条項は無効というべきであるから,本件賃貸借は,定期建物賃貸借に当たらず,約定期間の経過後,期間の定めがない賃貸借として更新されたこととなる(法26条1項)。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決を取り消し,上記請求を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 白木 勇、 裁判官 櫻井龍子、 裁判官 金築誠志、 裁判官 横田尤孝、 裁判官 山浦善樹)
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