判例紹介
自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合に、新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨の合意をしたとしても、これをもって賃借人に主張できないとされた事例 (最高裁平成11年3月25日判決 判例時報1674号61頁)
(事実)
Aは本件ビルを建築したが、すぐに本件ビルをBに売却した上、本件ビルを賃借した。その後、賃借人Xは、Aから本件ビルの6階から8階を賃借し、敷金3383万1000円を差し入れた。
Aは、その後、Bから本件ビルを買い戻しさらにCに譲渡した。
そして、CはYに信託譲渡した。
右A―C、C―Y間の契約に際し、本件賃貸借契約における賃貸人の地位をAに留保する旨の合意がなされた。 ところが、その後、Aに破産宣告がなされた。
賃借人Xは、右A―C、C―Y間の契約及び本件賃貸借契約における賃貸人の地位をAに留保する旨の合意がなされたことを知らないまま、Aに対して賃料を支払ったが、この間、A以外の者がXに対して賃貸人としての権利を主張したことはなかった。
賃借人Xは本件賃貸借契約における賃貸人の地位がYに移転したと主張したが、Yはこれを争った。 賃借人Xは本件賃借部分から退去した上、Yに対して敷金の返還を請求した。
これに対し、Yは①、Aから敷金の交付を受けていない。②、債務は信託の対象とならないからYは本件敷金返還債務を承継しないと主張した。
(争点)
本件ビルの信託譲渡を受けたYは賃貸人たる地位を承継し、本件敷金返還債務を負担するか。
(判決要旨)
最高裁判所は、『自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当然に右第三者に移転し、賃借人から交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継されると解すべきであり、右の場合に新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨の合意をしたとしても、これをもって直ちに前記特段の事情があるものということはできない。』と判示した。
(短評)
本件は不動産小口商品として売り出された物を、多数の者が共同で買い受け、これを信託銀行に信託譲渡した事案であるが、その際、新旧所有者間において前記合意をしたとしてもこれをもって賃借人に主張することができないとして、賃借人の敷金返還を保護したものである。
今後とも、賃借人は、いつ、賃貸人の破産や所有権の移転によって、損害を蒙るかもしれないので、注意を要するところである。
(1999.09.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
東京・台東借地借家人組合
無料電話相談は 050-3656-8224 (IP電話)
受付は月曜日~金曜日 (午前10時~午後4時)
(土曜日・日曜日・祝祭日は休止 )
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。