判例紹介
賃貸マンションの契約書の「更新の際には保証金を償却し、賃借人はその不足分を追加補充する」という特約は無効であり、保証金の補充を否定した事例 (東京地裁昭和63年8月26日判決)
(事実)
マンション賃借人Xは昭和48年、鉄筋コンクリート造7階建の3階を賃貸人Yより借りた。
契約書の中には「更新の際は保証金を賃料の2.5か月分を償却し、改定後の新家賃の5か月分になるように追加差し入れる」との特約がある。
Xは昭和50年と52年の更新の時には追加補充したが、54年の更新では特約が無効だと主張して保証金の追加を拒否したので、Yはその支払いと賃料値上げを求めて訴訟を起した。
調停に回され、そこで(1)賃料は据置き、(2)Xは解決金を支払う、(3)契約条件は従前通り、と口頭で合意に達したが、調停委員が書くべきところの調書をYの代理人弁護士に書かせたために「解決金」を「保証金の償却補充分」にさせられていた。
しかしXは解決金と書いていると思い、裁判書に異議をを唱えなかった。
その後、昭和58年と60年にYは賃料値上げと保証金償却分追加補充を請求したが、Xは再契約書を交わしていない法定更新を主張し、保証金の追加の支払を断った。
本件は昭和61年に、56年・58年及び60年の各更新は合意であり、特約に従って保証金の償却分の追加を求めて、Yが訴訟を起こしたものである。
(判決)
1、昭和52年と54年における更新で、保証金を償却して追加補充することに合意した点は当事者間に争いは無いものの、借家法第1条ノ2、第2条、6条によって賃貸借期間を定めた場合であっても、賃貸人は正当事由がない以上はその更新を拒絶することはできないし、賃貸借は従前の賃貸借と同一の条件をもって法定更新されるものとされ、右規定に反する特約で賃借人に不利なものは無効とされている。
2、従って、Yが主張する昭和56年、58年および60年の各更新を合意更新と認める根拠はない。Yの追加保証金の請求には理由がない。
(寸評)
最近は初めの契約のときに更新料の支払い、或は保証金の追加の特約が入っている契約書に署名させられるケースが増えている。
対価のない更新料は不当なものであるが、支払約束のあるものは有効とする判決が出ている中で、これを無効とした判決の意義は大きい。
(1989.03.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
東京・台東借地借家人組合
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