goo blog サービス終了のお知らせ 

東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

地主と借地権を巡るトラブルが引き金か 東京足立一家4人死傷事件

2008年02月19日 | 借地権

  2008年2月11日、東京都足立区梅田2丁目の機械修理・販売業佐々木亨さん(52)が自宅で妻和子さんら家族3人を死傷させ、自殺したとされる事件(佐々木さんのほか妻和子さん(49)と母得子さん(85)が遺体で発見され、次男(15)も両手首を切断するなどの重体であったが、意識は戻ったという)で、佐々木さんが書いたとみられる手紙が日本テレビ(東京都港区)とテレビ朝日(同)に届いていたことが14日分かった。無理心中をにおわせているが、不動産トラブルに巻き込まれたことを示唆する内容があった。 

 日本テレビによると、手紙は宅配便で2月14日の日付指定で届いた。この手紙などが宅配便業者に持ち込まれたのは、佐々木さん方から血が流れ出ているのが発見される1時間弱前の2月11日午後2時45分頃だった。送り主の欄には佐々木さんの名前が記され、 佐々木さん方の土地の借地権売買に関する書類も同封されていたという。

 手紙には「欲に目が眩んだ自分の責任です」「母親には車イスで生活できる家を、(妻の)和子には好きな洋裁をする家を、子供達には自分の部屋をプレゼントしたかった。全部無くしてしまいました。死んでお詫びします」などと手書きされ、「佐々木亨」と署名があった。

 また、。「宅建業者に騙されたという思いもあります」、「二度と私のようなバカを出さない為にも調べて頂けないでしょうか」などと取材を求める内容だった。

 事業不振であえぐ中、佐々木家に降って湧いたのが、自宅などの借地権の売却話だった。

 マンション建設計画で周辺の土地を買い進めていた都内の不動産会社が去年10月頃、亨さんに借地権の売却を打診。相場は2500万円程度だったが、亨さんは「4500万円ほしい」。その希望に沿うために、不動産会社は日光街道を挟んだ自宅向かいの倉庫の借地権も購入することにして、2月5日、約4800万円で売買する契約を結んだ。

 地主への借地権譲渡承諾料に必要な約300万円を除く、約4500万円が手に入ることになり、2月5日には約400万円の手付金も支払われていた。立ち退きをしたときに残金が支払われることになっていた。

 佐々木さんは担当者に「これで仕事を辞める踏ん切りがついた」とすっきりした様子で語ったといい、「和子さんも得子さんも手をたたかんばかりに喜んでいた」と会社関係者は言う。


 しかし、借地権の売却は暗転する。

 地主が佐々木さんを訪ねたとされる2月8日頃には、近所の人が佐々木さん方から「分かってるんだろう」という男性の怒鳴り声を聞いている。

 佐々木さんは事件3日前の2月8日、不動産会社に電話し、悲痛な声で訴えた。

 「倉庫の地主が売買を認めてくれない」、「借地契約を解除されてしまう」と怯えた様子で相談したという。 

 関係者によると、2月6日、不動産会社が倉庫の地主に契約成立を手紙で通知すると、8日朝に地主が、佐々木さん方を訪れ、「借地の更新料の問題も解決していないのに、そんな(借地権売買)契約は認めない」」と怒鳴り込み、「借地権譲渡の承諾をしない」と告げたという。

 佐々木家と地主には確執があった。佐々木亨さんの父親が生前、借地の更新料を巡り、この地主とトラブルになった。その後、地代の値上げ問題で再びトラブルになり、地主は佐々木さんからの地代の受領を拒否したので、平成8年から継続して法務局に地代を供託している。

 佐々木さんは不動産会社に電話で相談し、契約の有効性を確認した。電話を受けた不動産会社の担当者は、仮に地主の承諾が得られなくても、裁判所の許可で借地権を売却できることを説明し、「大丈夫ですよ」と励ました。

 佐々木さんは怯えきった様子で、このときの電話が亨さんと不動産会社側の最後のやり取りになったという。

 警視庁の調べでは、亨さんには約2000万円の預貯金があり、犯行前にその一部を預けた口座の通帳を姉に渡していた。事業は行き詰まっていたものの、金銭的な余裕はあったとみられ、借地権の売買をめぐる悩みが動機となった可能性もあるとみられている。また、使われたナタは事件数日前に佐々木さんが購入していたもので、覚悟を決めたうえで計画的に事件に及んだとみている。

 


 

上が報道されている内容を纏めてみたものである。

 報道されている内容(不動産会社に「借地契約を解除されてしまう」と怯えた様子で相談したいていること及び「全部無くしてしまいました」と書いていること)から佐々木さんが借地権売買契約をしたこに対して、地主が不動産会社への借地権売買契約は「無断譲渡だから借地契約を解除する。建物を取壊して即刻、土地を明渡せ」と脅したものと推察される。

 地主の主張する法律的根拠は以下のようになる。
 借地権を第三者に譲渡するときは、借地契約書に「借地権の譲渡には必ず地主の事前承諾を要する」との条項が記載されていなくても地主の承諾は必要である(民法612条1項)。
 地主の承諾を得ないで借地権を第三者に譲渡した場合、地主は借地契約を解除することができる(民法612条2項)。

 だが、報道されている内容では、借地権の売買契約を締結し、手付金400万円の支払いを受けたという状態では借地権の無断譲渡には該当しない(下記の(*)を参照)。従って、民法612条を根拠に地主がいくら強硬に主張しようと借地の契約解除・土地明渡の問題は発生しない。

 直ぐに裁判所に「借地借家法19条」に基づく「譲渡承諾の非訟手続」をしていれば、何ら問題が起こらないで済んでしまった筈である。

 どういうことかというと、借地権が第三者に譲渡されても地主に不利益がないのに地主が飽くまで承諾しないときは「借地借家法19条」の規定により裁判所に対して「地主の承諾に代わる譲渡許可」の申立をすれば、地主が承諾を拒み続けても裁判所の認定した譲渡承諾料(殆どの場合、借地権価格の10%)を支払えば適法に借地権の譲渡をすることが出来る。

 勿論、借地借家法19条3項の規定から地主が「先買権」を行使し、不動産会社が提示した買取金額から地主本人が買うので譲渡承諾料を差引いた金額で、不産会社を出抜いて地主が借地権を買取ることもありえる。

 従って、不動産会社は、借地人と借地権の売買契約を締結しても借地権を買取れるという保証はない。もし不動産会社が買うのであれば、借地人は借地権価格の10%の譲渡承諾料を地主に支払う。地主が買うのであれば、譲渡承諾料は不要である。借地人としては、どちらが買おうとも、手にする金額に違いはないので、特段の不利益はない。

 

参考法令
民法(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第612条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。

2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。


借地借家法(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
第19条 借地権者(借地人)が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者(地主)に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者(地主)がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者(借地人)の申立てにより、借地権設定者(地主)の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付(譲渡承諾料)に係らしめることができる。

2 裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。

3 第1項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。

 (*)詳しいことは、以前に書いた「Q&A借地権を売却したいのだが、地主が借地譲渡の承諾をしない を覗いてみてください。

 

東京・台東借地借家人組合

無料電話相談は 050-3656-8224 (IP電話)
受付は月曜日~金曜日 (午前10時~午後4時)
土曜日日曜日・祝祭日は休止 )
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。