90年代初頭のアシッドジャズ期を代表するサウンドクリエイターの一人、スノウボーイが1992年に本家Acid Jazzレーベルからリリースした傑作12インチEP。何年か前に誕生20周年だかでレコード会社から持ち上げられ、何枚かリイシューなども出ていたアシッドジャズですが、どうやらプロモーター側の目論見は完全な期待はずれに終わったようで、世間的には特に再評価される様子もなく、今も「昔流行った懐メロ」の地位に甘んじているように思われます。90年代初頭に70年代のソウルを再評価したのがレアグルーヴ・ムーヴメントならば、同じように2010年代の今これら90年代のアシッドジャズを再評価されても不思議ではないと思うのですが、あいにくこれらの音源は未だにブックオフの250~500円コーナー常連。元々サウンドのクォリティ自体は高い作品が多いだけに、中古市場における今の扱いを見ているとなんだか不憫な思いになります。ただ逆転の発想で考えるのであれば、これらアシッドジャズ期の作品群はコストパフォーマンスに優れた宝の山。もちろん全ての作品が今の耳での鑑賞に耐えうるかと言えばそんなことはありませんが、いわゆるメロウグルーヴの流れで聴ける曲もたくさん眠っているので、この辺りの音楽に明るくない人は、一度本腰を入れて聴き込んでみるのも面白いかもしれません。さて前置きが長くなりましたが、本作はそうした今の耳でのメロウグルーヴ的観点で聴けるアシッドジャズ作品の代表格。とにかくA面のGirl Overboardが、反則的な完成度を誇る奇跡の一曲です。元はサザンソウルの歌手として知られるドロシー・ムーアの曲で原曲も良いのですが、ここでは雰囲気やテンポはそのままにアーバン度20%増しのアシッドジャズ・マナーでカバーしており、非常にフリーソウルライクな仕上がり。ここで普段紹介しているような音楽が好きな人で、この曲を嫌いな人は多分いないでしょう。他に収録されている2曲はまた雰囲気が異なり、正直メロウグルーヴ愛好家向けではないですが、これ1曲だけのためにでも買う価値がある一枚だと思います。今なら1000円以内で買えると思うので、知らない人がいたら是非探してみてください。ちなみにゲストヴォーカルのアンナ・ロスとスノウボーイは、1年後に彼女自身のシングルであるWhere Love Livesで再共演済み。こちらもGirl Overboardに勝るとも劣らない名曲なので一聴の価値ありです。
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