(前回からの続き)
前述したように、欧州中央銀行(ECB)の現行(3月開始)の「パンデミック緊急購入プログラム」(Pandemic Emergency Purchase Program:PEPP)という名の量的緩和策(金利を引き下げるために国債等を買い支える金融政策)は、イタリアやスペインといった南欧諸国すなわちEU加盟国のうちの重債務国のための「財政ファイナンス」(ECBによるこれら国債の直接引き受け)的な色合いの濃い政策です。かの国々の公的債務状況の厳しさは、ずっと前から―――遅くともギリシャ債務危機(2010年頃~)あたりから―――すでに構造的であり、だからこそECBは昨年秋にはこの手の緩和策を再開し、そしてその拡大を模索していたところ、今春のコロナ禍拡大という、誰もが仕方ないなと思える(?)きっかけをとらえ、パンデミックですからね、という大義名分でその規模を一気に膨らませた、という次第なのでしょう(?)。
で、これ3月の開始から今月までのたった9か月で、7500億→1.35兆→1.85兆ユーロと、その購入枠がどんどん拡大されているわけですが、これもまたEUとECBに特有の事情のせいだといえるでしょう。つまり、ECBが買い入れできるEU加盟国のA国の国債等の金額は、A国のECBに対する出資割合(キャピタル・キー)に制限される、ということ。となると、たとえ他国債に現状以上の購入の必要がなくても、A国債に買い支えのニーズが出てくると、ECBは上記の全体上限を引き上げざるを得なくなることに・・・
このA国に該当するのが・・・イタリアになっているようです。やや古いですが、今年8月時点のECBのデータによると、6~7月にECBは伊国債等を360億ユーロ購入しましたが、これは当時のPEPP額の19.6%となり、イタリアのECB出資比率である17%を上回ってしまっています。これでは他のEU加盟国からECBは「イタリアだけを優遇する気か」などと非難されてしまう、かといって、もう上限に達したからと同購入をストップすると同国は金利急騰で破綻必至。そこで・・・イタリア債券の購入可能額を同国のキャピタル・キーの枠内におさめることができるよう、PEPP全体を増額しよう!となったのでしょう、おそらく。それが6月そして今月と立て続けに上記増額が行われたことの裏事情と思われます(?)。
で、上記のように見てみると、このPEPP、名前はともかく、スキームとしてはコロナ禍が終息した後も(現状の終了目途2022年3月を超えて)延々と続けられる可能性が高いことが想定できます。というのも、イタリア・・・はもちろんスペインなどの国々も、この間の超低金利マネーの乱用にどっぷりとハマっていく結果、「コロナ終わったので国債の買い取りはやめます」となったときの金利の上昇に耐えられず、いともあっさりとデフォルト(債務不履行)してしまうことが見え見えだからです。(かの国々らの債権者の多くはドイツやフランスだから)そうはさせられない、だから、やめられない・・・