今回ご紹介するのは「吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋」(著:山本渚)です。
-----内容-----
みんなの頼れる図書委員長・ワンちゃん。
彼の憧れは、いつものほほんと穏やかに見守ってくれる司書の牧田先生。
高2の冬、進路のことで家族ともめたワンちゃんは、安らぎを求め司書室へ。
だけどそこで出会った牧田先生の、普段とは異なる意外な素顔に動揺して……。
憧れから初恋へと変わっていく、高校生の甘酸っぱい葛藤を描いたシリーズ第2弾。
委員仲間のかずらへの初恋と将来の進路に悩む藤枝のパート「希望の星」を併録。
-----感想-----
※「吉野北高校図書委員会」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
吉野北高校は、徳島県徳島市にある進学校です。
そこで図書委員会に所属する生徒たちが物語の中心となります。
委員長に岸本一(ワンちゃん)、副委員長に武市大地と川本かずら、書記に藤枝高広で、この四人が図書委員会の幹部でみんな二年生です。
二年生の主要登場人物にはもう一人西川行夫というものすごいオタクキャラがいます。
そして一年生で武市大地の彼女の上森あゆみ、司書の牧田先生の七人が主要な登場人物となります。
今作は「委員長の初恋」とあるように、図書委員長の岸本一(ワンちゃん)の初恋にスポットが当たり、主役になっていました。
物語の語り手もワンちゃんです。
ちなみにワンちゃんとは、一を英語読みするとワンになることからこの渾名になったようです。
時期は高校二年生の冬。
特別進学クラスの補習を終えたワンちゃんが牧田先生の居る司書室に来たところから物語は始まります。
まだ他の委員は誰も来ていません。
ワンちゃんはそこで読書を始めるのですが、ワンちゃんにとって他に誰も来ていないこの時間は大事なようで、
しんとした部屋の中で、僕がページをめくる音と、先生がボールペンを走らせる音だけが響くのが、耳に心地いい。先生と二人だけの司書室はとても静かで穏やかだ。
と何やら牧田先生を意識しているのが見て取れることを語っていました。
ちなみにワンちゃんがこの時読んでいたのは「時をかける少女」(著:筒井康隆)でした。
ワンちゃんによると、一年生の頃は武市大地と川本かずらとワンちゃんはずっと三人でつるんでいたとのことです。
そこに藤枝高広が加わり、後輩の上森あゆみが加わり、今までは三人で形成していた形が少しずつ変わっていったようでした。
今作はワンちゃんが語り手なだけに、ワンちゃんの家族も出てきました。
美咲と志保の小学校三年生の双子の妹。
中学二年生の弟の祐二。
父はサラリーマン、母は看護師で祖父母は農業を営んでいます。
家は二世帯住宅になっています。
ワンちゃんは常に周りに気を配っていて、他の人のことをよく見ています。
美咲が元気に遊んでいるように見えながらも熱を出している異変にもすぐに気づいていました。
他にも川本かずらについて、
川本さんは後輩でも世話になったらちゃんと「ありがとう」と言うし、迷惑をかけたら「ごめんね」と言う。それは川本さんがしていると、いとも簡単そうに、当たり前のように思えるけれど、本当は難しいことだ。
というように他の人をよく見ているのが分かる描写がありました。
そんなワンちゃんに、事件が起こります。
進路調査表に「O大学工学部環境工学学科」と書いたことに祖父が激怒。
ワンちゃんは都市の環境保全や緑との共生に興味があるのですが、農業を継ぐものと思っていた祖父はこれが許せないようでした。
ワンちゃんは動揺し、また、それくらいで環境工学はやめて農業にすべきかなと気持ちが揺らぐ自分自身にもだいぶ動揺していました。
ワンちゃんは心の安らぎを求めて牧田先生の居る司書室に行くのですが、牧田先生の意外な一面に遭遇してしまいます。
私はその場面を読んで普段とのギャップに衝撃を受けました。
普段おしとやかだからといって、常にそうとは限らないということです。
相当ショックを受けたようで、ワンちゃんの心の乱れようが半端ではなかったです。
普段のワンちゃんと全然違っていて、これには驚きました。
前作では常におおらかで落ち着いていたワンちゃんが初恋をして、その相手の意外な姿に珍しく物凄く動揺していたのが印象的でした。
そんな珍しく動揺しているワンちゃんを、牧田先生が励ましてくれます。
そしてこの時、ワンちゃんは完全に牧田先生のことを好きなのを自覚します。
牧田先生はワンちゃんより10歳近く年上らしいので、25~6歳だと思います。
「空飛ぶ広報室」(著:有川浩)に出てきた「愛の反対は無関心」と似た場面がありました。
この作品ではそれを逆から見たバージョンで、「無関心の反対は愛」です。
特に興味のない人であれば関心自体示さないし、その人のことが好きだから関心を持ち、意外な一面にショックを受けたりするということでした。
僕は今まだぐちゃぐちゃだ。そのことをこうやって、一つ一つ受け止めていくしかない。
これを見て、ワンちゃんは偉いと思いました。
ただ混乱しているだけではなく、きちんと自分自身のことを受け止めようとしています。
この初恋がどうなるのか、第三巻が気になるところです。
「希望の星」の語り手は藤枝高広。
藤枝が進路調査表が書けなくて居残りさせられていて、その様子をクラスメイトでもある川本かずらと壬生が見ています。
壬生はアニメの声優に興味があり、進路も東京に出てその方向で狙っているようです。
かずらは本が好きで本に関わる仕事をしたいことから司書を狙っています。
学校って多分そういう場所なのだ。未熟な奴が未熟ななりに、色々考える場所。
藤枝のこの考えは何だかすごく納得しました。
たしかに未熟なことこの上ないと思います。
そして未熟だというのをきちんと自覚しているのが偉いです。
物語は高校二年生の2月なので、あと二ヶ月でクラスが変わります。
かずらとも違うクラスになってしまうかも知れません。
その前に、もう一度告白をしようかと、藤枝は考え始めます。
ちなみに「希望の星」では「委員長の初恋」と同じ場面を、藤枝の視点で描いている箇所があります。
あの時はワンちゃんの視点でしたが、そのすぐそばに居た藤枝はこんなふうに考えていたのかというのが分かって面白かったです。
藤枝は前作で川本かずらが勧めていた竹久夢二の「宵待草」を読みました。
それをかずらに伝え、二人で話しているのを見ると、この二人がどうなるのかも気になるところです。
第三巻は高校三年生での物語になるはずです。
藤枝とかずらはどうなるのか、ワンちゃんの恋はどうなるのか、三巻もぜひ読んでみたいと思います
また、今日マチ子さんによる最後の2ページも良かったです。
この人のイラストは線の細さと温かみが上手く合わさっていて良いなと思います。
この作品には今日マチ子さんのイラストがかなり合っていると思うので、三巻にも期待しています
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