読書日和

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「有頂天家族」森見登美彦

2010-08-18 23:17:43 | 小説
今回ご紹介するのは「有頂天家族」(著:森見登美彦)です。

-----内容-----
「面白きことは良きことなり!」が口癖の矢三郎は、狸の名門・下鴨家の三男。
宿敵・夷川(えびすがわ)家が幅を利かせる京都の街を、一族の誇りをかけて、兄弟たちと駆け回る。
が、一族はみんなへなちょこで、ライバル狸は底意地悪く、矢三郎が慕う天狗は落ちぶれて人間の美女にうつつをぬかす。
世紀の大騒動を、ふわふわの愛で包む、傑作・毛玉ファンタジー!

-----感想-----
この作品は一言で表すと、狸と人間と天狗が織り成す破天荒なファンタジー物語ということになります。
この三つが物語の三大勢力ということになるのかなと思います。
笑いあり、家族愛あり、謀略あり、化かし合いあり、サスペンス要素ありの、とても面白い小説です

主人公は下鴨矢三郎という下鴨家の三男で、長兄は矢一郎、次兄は矢二郎、弟は矢四郎といいます。
父・下鴨総一郎はかつて洛中の狸界をまとめ上げた大狸であり、狸界のトップの証たる「偽右衛門(にせえもん)」という称号を持っていました。
しかし父は数年前に人間によって「狸鍋」にされて食べられるという悲劇的な最後を遂げていて、すでに死んでしまっています。
残されたのは母と、偉大なる大狸の血を引く四人の息子たち。
ところが息子たちは父に比べると”いささか”器が足りず、「あの下鴨総一郎の血を受け継ぎそこねた、ちょっと無念な子どもたち」などと世間から囁かれる始末。
父の実の弟でありながら下鴨家を目の敵にする夷川早雲(えびすがわそううん)には悪行狼藉の限りを尽くされ、夷川家とは小競り合いの絶えぬ日々。
そんな中でも矢三郎は、持ち前の「面白きことは良きことなり」精神で毎日を楽しんで生きていきます。

今作はとにかく言い回しが面白可笑しい感じになっていて、読んでいてとても楽しかったです
「なにゆえ」「先刻御承知」「阿呆の血のしからしむるところ」など、ちょっと固めの言葉をよく使っているのですが、これが物語の面白さをひと際引き立てています。
間抜けな内容の会話なのに大真面目にこんな言葉を使われると、かなりウケます^^

また、今作でも「夜は短し歩けよ乙女」とのリンクがありました。
”偽電気ブラン”この言葉が出てきたとき、これはまさしく「夜は短し歩けよ乙女」に出てきたあの酒ではないかと思いました
今作では偽電気ブランの秘密が明らかになります。
また、気になる一文がありました。
それによると、偽電気ブランは東京浅草の電気ブランをまねて造ったとのことです。
段々私も森見登美彦さんの作風が分かってきたので、これはもしやと思いネットで電気ブランを調べてみました。
そうしたらやはり、ありました。
電気ブランという酒の正体を知りたい方はこちらをどうぞ。
これを真似して造ったのが、作中に出てくる偽電気ブランというわけです。
名前が名前だけに、電気ブランという酒自体架空のものと思っていたのですが、まさか実在していたとは(笑)
このあたりが森見登美彦さんの上手いところです。

ところで、矢三郎の父は狸鍋にされて食べられてしまいましたが、このときその鍋を食べていたのが「金曜倶楽部」と呼ばれる七人の人間たちです。
金曜倶楽部は大正時代から続いている秘密の会合で、ひと月に一度、金曜日に開かれることからその名がついたと言われています。
彼らは毎年忘年会に狸鍋を喰うので洛中の狸たちからは忌み嫌われています。
この金曜倶楽部に紅一点、弁天と呼ばれる女がいます。
弁天氏はとても美しいのですが性格に問題があり、早い話が悪女です^^;
以前は普通の人間だった弁天はある日、天狗にさらわれてしまいます。
その天狗の名は「如意ヶ嶽薬師坊(にょいがたけやくしぼう)」といい、弁天はこの人から天狗の技を伝授され、いつしか本物の天狗にも勝る力を手に入れます。
当の如意ヶ嶽薬師坊のほうは「往年の大天狗も寄る年波には勝てず」などと評され、作中ではずっと「昔は強かったが今では見る影もない」的な扱いになっていました(笑)
ちなみに如意ヶ嶽薬師坊は矢三郎の師匠でもあり、そんなわけで弁天と矢三郎も顔見知りです。
しかしとある事情で、矢三郎はしばらくの間弁天から逃げるために逃亡生活をすることになります。
「お二階のお客様、お逃げ下さりませ!」
弁天が矢三郎の潜伏している場所を急襲したときのこの台詞は、何だか新撰組の「池田屋事件」を思い起こしました^^
作品の舞台が京都だけに、パロディっぽくしたのかも知れません。
迫り来る弁天を前に、どうする矢三郎。。。

また、今回も現実と空想の織り交ぜ方の上手さが際立っていました
矢三郎の次兄、矢二郎はとある事情により狸でいることを止め、蛙に化けて六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)にある井戸に引きこもっています。
私は最初、名前が名前だけにこのお寺も空想のものなのだろうと思っていました。
しかし森見さんのことだからもしかしてと思いネットで調べてみたら、案の定このお寺は実在していました。
注目は狸が蛙に化けて井戸に引きこもるという設定で、こんなのと六道珍皇寺をセットにされたら、珍皇寺のほうも空想と思ってしまいます

この作品は「たぬきシリーズ」の第一作で、この後第二作と第三作が出るとのことです。
実は今作で回収されていない伏線がいくつかあって、気になっていました。
続きを楽しみに待ちたいと思います


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
viviandpianoさんへ (はまかぜ)
2010-08-20 23:12:16
かなり賑やかな物語ですよ^^
会話も面白おかしくなっていて、読んでいて楽しいです

狸の肉は臭みが強いらしく、食用には向かないらしいです。
臭みを取り除く方法もあるようですが、そうまでして食べたくはないですね
しかしこの作品に出てくる狸鍋は「とても美味しい」と評されていて、ちょっと気にはなります(笑)
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楽しそう! (viviandpiano)
2010-08-20 19:09:32
狸のお話ですか♪
すっごく、にぎやかで面白そうですね!
色んなパロディーが入ってるところなんかも、
奥行きが深そうです。

ところで、狸汁って昔話とかに良く出てくるけど、
そんなに美味しいものなのでしょうか??
今は食べないから、それほどでもないのかな?
狸には良い世の中になりましたね(笑)
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