読書日和

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「旅屋おかえり」原田マハ

2014-09-26 23:59:59 | 小説
今回ご紹介するのは「旅屋おかえり」(著:原田マハ)です。

-----内容-----
あなたの旅、代行します!
売れない崖っぷちアラサータレント”おかえり”こと丘えりか。
スポンサーの名前を間違えて連呼したことが原因でテレビの旅番組を打ち切られた彼女が始めたのは、人の代わりに旅をする仕事だった―。
満開の桜を求めて秋田県角館へ、依頼人の姪を探して愛媛県内子町へ。
おかえりは行く先々で出会った人々を笑顔に変えていく。
感涙必至の”旅”物語。

-----感想-----
32歳のアラサータレント丘えりかは旅するタレント。
お台場にある「あけぼのテレビ」というテレビ局にて、旅とご当地グルメがテーマの「ちょびっ旅」というたび番組をレギュラーで持っています。
ただし、丘えりかが持っているレギュラー番組はこの一本きりです。

丘えりかの本名は岡林恵理子。
テレビでは”おかえり”の愛称で親しまれています。
おかえりの故郷は北海道の礼文島(れぶんとう)という、人が住む最北端の小さな島です。
実家はその最北端・スコトン岬にほど近い場所、通称「名もない丘」にあるとのことです。

おかえりが所属しているのは「よろずやプロ」という弱小芸能プロダクション。
社長の萬鉄壁(よろずてっぺき)、事務及び経理担当副社長の澄川のんの、そしておかえりの三人しかいません。
所属タレントはおかえり一人だけです。

「ちょびっ旅」は、毎週土曜日の午前9時半から9時55分までの番組です。
青森県黒石市を舞台にした「ちょびっ旅<青森・黒石編>がオンエアされた翌週、おかえりと鉄壁社長は二人揃ってあけぼのテレビに呼び出されました。
そこで告げられたのは、「今回のオンエアで番組の打ち切りが決定した」という衝撃の言葉。
おかえりが黒石名物の「つゆ焼きそば」を食べた時、番組スポンサーの「江戸ソース」のために焼きそばに江戸ソースが使われていてそれが美味いとアピールしたのですが、その時致命的な言い間違いをしてしまいました。
おかえりが言ったのは「エゾソース」で、これは「江戸ソース」が昭和元年に創立して以来のライバル会社です。
一文字違いでよりにもよってライバル会社の社名を何度もPRしてしまい、スポンサーの「江戸ソース」は相当なご立腹となりました。
「ちょびっ旅」のスポンサーは不況の中でも続けてくれた「江戸ソース」の一社だけなので、その「江戸ソース」が激怒した今、もはや番組を続けられなくなったというわけです。

鉄壁社長もおかえりも、途方に暮れてしまいました。
「もう、なんにも仕事がない」というおかえりの言葉はかなり切実でした。
所属タレントはおかえり1人だけなので、おかえりの仕事がなくなれば事務所自体も存続不可能です。
「で、お前どうすんだ。クニへ帰るのか?」と聞く鉄壁社長に、「いえ。帰りません。……帰れません」と答えるおかえり。
鉄壁社長も「おれも、帰れない。クニにはこのさき、一生帰れないんだ」と言います。
二人とも故郷には帰れない事情があります。

だからここで、踏ん張るしかねえんだ。何があったって。

鉄壁社長のこの決意は印象的でした。

おかえりは、亡き父との約束で、芸能人として花開くまでは故郷に帰ってこないことになっています。
母からも父の死後、父との約束を守り花開くまでは決して帰ってこないように言われました。
私の開花日は、いったい、いつなんだろう。ひょっとすると、もう、花は開かないのかもしれない。
アイドルとして花開きかけた瞬間はあったものの、その後は下降線をたどり、おかえりはまだ故郷に帰れていません。

唯一のレギュラー番組が打ち切りになり、窮地に立たされたおかえりに転機が訪れます。
ある日、事務所に鵜野という藤色の和装の婦人が訪ねてきます。
鵜野はおかえりが電車の中に置き忘れてしまった全財産入りのバッグを事務所に届けてくれました。
ちょうどおかえりの真向かいに座っていて、目の前に座っているのがおかえりだと気づき、おかえりがバッグを忘れて降りていってしまったために届けてくれたというわけです。

鵜野さんはおかえりにお願い事があって来ていました。
それは、鵜野さんの娘の代わりに旅をしてもらえないかというもの。
鵜野さんのひとり娘の真与さんは、全身の筋肉が次第に萎縮していく難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気になり、闘病生活を続けています。
真与さんはおかえりと同い年で、29歳のときに発病し、去年入院したきりまったく外へ出かけられなくなってしまいました。
また、真与さんは生きる望みを失っていて、この先病気が進行して呼吸が困難になった時、人工呼吸器を付けることを拒否しています。
鵜野家は華道「鵜野流」の家元で、鵜野さんのご主人である四代目家元・鵜野華伝氏はいずれ家元を継ぐ娘を厳しく教育してきました。
しかしその娘が難病に侵されて、家元は相当なショックを受けたようです。
ある時から娘を見舞おうとしなくなり、現実から目を逸らして、仕事へ逃げこむばかりになってしまいました。

真与さんは「ちょびっ旅」が始まった時から毎回放映を楽しみにしてくれていて、自分はもう旅はできないけれど、代わりにおかえりが旅してくれてるみたい、と言っていました。
そんな折、「ちょびっ旅」が終了してしまい、真与さんはだいぶ落ち込んだようです。
鵜野さんは娘を元気づけようとテレビ局に番組を再開してほしいと電話で嘆願したりしました。
「おかえりさんの事務所を訪ねてみる」と言い出したところ、家元は冷ややかな反応をして、喧嘩になって鵜野さんはたまらずその場を飛び出し、地下鉄に乗りました。
そしてそこで、目の前の席におかえりが座っていて、なおかつ忘れ物をしていったのです。
何ともできすぎな話ですが、鵜野さんは「神さまがそうしてくださったとしか思えない」と考え、おかえりにお願い事をするために忘れ物を持って事務所にやってきました。

真与さんからの「旅代理人」の依頼を、おかえりは受けます。
「旅屋」の仕事がここから始まります。
行き先は秋田県の角館(かくのだて)、日本随一のしだれ桜の名所です
病気が発症する直前、家元と母と角館にしだれ桜を見に行った時、満開の桜は待っていてはくれず、散々な雨が降っていて桜も散ってしまっていて、せっかくスケジュールを合わせて一緒に行ってくれた家元は怒ってしまいました。
真与さんはこれが心残りでした。
その後、角館への旅から帰ってきて間もなく真与さんは歩行困難になり、ALSと診断され、もう二度と角館にも行けなくなってしまいました。
おかえりは最後に家族で旅行した角館が雨降りで、散々な思いをして帰ってきた真与さんのために、何としても満開の桜を美しく撮って見せてあげたいと奮闘します。

いつも思う。旅が始まる前夜は、どうしてこんなにわくわくするんだろう。ひょっとすると、このわくわく感こそを味わいたくて、私たちは旅を続けてきたのかもしれない。

しかし晴れ女で旅の日に雨が降ったことなど一度もないおかえりなのに、角館に着いてみるとまさかの雨
「その太陽の娘は、いま、しとどに雨に濡れていた」という表現があり、しとどとはどういう意味か調べてみたら、「びっしょり」という意味のようです。
予想外の事態におかえりは途方に暮れます。
そこで1日目の予定を変更して、秘湯・玉肌温泉に向かいます。
その道中、雪が降ってきます

「信じられない……雪、雪が降っています。今日は4月25日、春の雪です。」

ビデオカメラにナレーションをつぶやきながら、おかえりは目の前の息をのむほど美しい風景に感嘆とします。
玉肌温泉では、玉肌温泉三代目湯守・玉田大志と祖母、そして子ども達に迎えられ、楽しい時間を過ごします。

旅は、出かけるだけで、すでに意味がある。
大志のこの言葉は印象的でした。

そして、角館への旅を終えたおかえりは鵜野さんと真与さんの待つ病院へと向かいます
新御茶ノ水駅にほど近い場所にある大学病院とあるので、順天堂大学医学部附属順天堂医院がモデルになっていると思われます。
おかえりが角館で撮ってきた映像を「成果物」として届ける時が来ました。
真与さんにもう一度生きる望みを持ってもらうための、そして父と娘に雪解けをもたらすための、渾身の「旅屋おかえり・角館編」の旅映像です

その後本格的にスタートした「旅屋」の仕事は徐々に依頼が来るようになります。
20件目の業務完了を果たした後、思いもよらぬ展開が待っていました。
かつて「ちょびっ旅」の唯一のスポンサーだった「江戸ソース」の江田悦子会長が、丘えりかの最近の仕事に興味を持っているというのです。
そして悦子会長はおかえりに四国の愛媛県、内子町(うちこちょう)に旅に行くことを依頼してきます。
天川(てんかわ)真理という元アイドル歌手がそこに暮らしています。
そしてその人が、悦子会長の遠縁に当たるとのことです。
本名は国沢真理子、53歳で、現在は内子で「やまもも」という喫茶店を経営しています。
真理子は悦子会長の妹の娘で、姪に当たります。
江田家の血縁関係者はすでに全員他界し、存命しているのは悦子会長のみのはずだったのですが、「江戸ソース」の創業85周年を2年後に控え、社史の編纂をしていた際、創業家の江田家の歴史を調べていたらかつてタレントだった人物が遠縁にいたということに行き当たりました。
悦子会長の依頼は、真理子と会って、一緒に妹のお墓参りへ行ってきてほしいというもの。
そして、藤色の袱紗を墓前に供えてほしいというものです。
「墓前に行くまで決して開けてはなりません」と言われた中身が謎の袱紗です。

この依頼を成功させれば「ちょびっ旅」の復活もあり得ることから、おかえりは張り切って引き受けようとします。
しかし、一緒に悦子会長の話を聞いていた鉄壁社長はなぜか気分が悪そうな表情をしています。
普段の元気さがなくなり、黙り込んでしまっていました。
どうやら天川真理こと国沢真理子と鉄壁社長には何かあるようです。
「ちょびっ旅」ファミリーの市川ディレクターからは、「もしおかえりが内子町へ旅に出たら、社長はもうこの業界でやっていけなくなるかもしれない」と言われ、「この話はなかったことにしてくれないか」とも言われます。
ただならぬものを感じつつもおかえりは、愛媛県の内子町へ旅に行きます。
果たしてどんな展開が待っているのか、悦子会長の依頼を果たすことはできるのか、緊迫した旅になりました。

旅を代行する「旅屋」という仕事は面白いなと思いました。
おかえりに「私の代わりに旅に行ってほしい」と頼んでくる人がいて、依頼人の数だけ色々な旅模様があります。
旅が大好きなおかえりには天職ですし、ぜひ色々な旅をしていってほしいと思いました


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2 コメント

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ビオラさんへ (はまかぜ)
2014-09-28 11:56:17
たしかに、捨てる神あれば、拾う神ありな展開でした。
予期せぬ形で、おかえりの番組を見ていた人がおかえりと事務所の窮地を救ってくれることになりました。
後半の江田会長の依頼は緊迫した展開でしたよ。
うまく依頼に応えられれば番組の復活の可能性もあるのに、なぜか浮かない表情の鉄壁社長には、深刻な気配がありました。
愛媛県内子町への旅は社長の秘められた過去に迫る旅になります。
しかし内子町もまた素敵なところで、街並みの描写が興味深かったです
そこを舞台に奮闘するおかえりの旅、緊迫した中にも旅の面白さ、人と人のつながりから生まれるドラマがありました
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Unknown (ビオラ)
2014-09-28 08:41:02
人生の崖っぷちを経験しながらも、それでも花開くまで故郷に帰れないからと、舞い込んできた旅代理の仕事を一生懸命こなして行くオカエリ・・・、なんか現実にも似たような事が多々ありそうな話ですね。

TVに出る仕事は、視聴者への影響力が大きいので、良い事の場合は波に乗るけど、逆の場合は、致命的になったりして、シビアな世界です。

が、捨てる神あれば、拾う神ありってあるんですね。ほんと不思議なタイミングで、鵜野さんと出会って、好転して行きますね。

後半に書かれている、江田会長の依頼のところで、鉄壁社長の封印されていた謎が再度気になって来ました。
社長はどうなるんだろう~と心配になるけど、結末は、HAPPYに終わるんじゃないかなって感じました。
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