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「どうぞどうぞ」とすすめられるままに、壁から出ているハンドルを回してみる。
思ったより手応えはあったものの、ゴロゴロゴロ音を立てながらドーム部分が横に滑り出す。木造のドームが回転を始めたのだ。
そう、大きな望遠鏡が収まっているあの半球部分を、いま確かに僕の腕の力で動かしたのである。天文少年だったら誰もが一度はやってみたかったゴロゴロだ。この年になってできるとは思ってもみなかった。今でも、思い出すと興奮する(笑)。
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おっさん二人旅で立ち寄った『国立天文台三鷹キャンパス』の「第一赤道儀室」である。この建物がまたいい具合に枯れている。周囲のコンクリートには苔まで生えて、古いお寺のような趣まで感じる(感じないか)。
鉄人28号の頭のようなドームが美しい。鉄人だけど実は木人で、やわらかな感じがもうたまらない。頭を撫で撫でしたくなってくる(笑)。
ちなみにこの建物、大正10年築の90歳。国の登録有形文化財だ。
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ドームの中央には太い柱があり、その中におもりが仕込んである。
「1時間おきに巻くんですけど、そろそろなのでやってみますね」
東京理科大生だという女性スタッフが取っ手を回すと、そのおもりが持ち上がってくる。何回か回したところで手を離す。そのおもりが下がる力でギアを介して望遠鏡を一定の速度で回すというのだ(目では確認できないほどゆっくりゆっくり)。1回持ち上げれば1時間半も動き続ける。しかも、追尾する天体によって速度も微調整できるというから驚く。
そしてもっと驚くのは、この仕組みが84年も前に作られたものだということ。
おや、柱には「カール・ツァイス」の文字が!
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下に併記されている「JENA」社を統合していたわずかな時期に製造されたもので、かなり貴重な製品らしい。
それが今も太陽の黒点の観測用として現役である。ただ、この日は曇り空。こんなでっかい図体をしているのにまったく役目を果たしていないところがまた、なんとも愛らしいではないか。
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いつも観測ができるように、スタッフの誰かが結んだ小さな照る照る坊主が可愛い。
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この三鷹キャンパスの広大なスペースには、こうした古い望遠鏡や子午環(天体の位置観測装置らしい)やらが点在している。これをゆっくり歩いて回れるのだから素晴らしい。受付で名前などを記入すれば誰でも無料で入場できる。こういうものは、決して仕分けしてはいけないよ。そう思わせるだけの価値がある。
バスケットにサンドイッチでも詰めて、一日ピクニックしたい(笑)。
なにかの本で読んだ一説を思い出した。
クラシックカメラは電源がないから今でも現役。でも、電子部品が組み込まれた製品は電源がなければ動かない。そして、最先端だからこそ日々陳腐化していくと。
いかにも堅牢そうな赤道儀を前に、僕たちはなるほどと唸るしかないのであった。
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そうそう、最初に回したハンドルがこれ。こっちはわりと華奢。これでゴロゴロ回っちゃうんだなぁ。それにしても感動した。
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