湘南ライナー日記 SHONAN LINER NOTES

会社帰りの湘南ライナーの中で書いていた日記を継続中

玉丼と特製玉子丼

2011-07-20 22:00:10 | B食の道


実は玉丼が大好きである。
ただ、日頃は食堂のメニューにあっても、なかなか頼みづらいものだ。
なぜなら、安いから。
そう、カツ丼や親子丼ならトンカツや鶏肉という卵にとじられることになった主役の存在がある。しかし、玉丼には主役が不在だ。いや、本来は卵そのものが主役だったのだろう。しかし、カツ丼や親子丼の登場によって、何かもの足りないような、そしてすっかり安価な料理に成り下がってしまったのだ。

例えば、懐かしい造りのちょっとすてきな定食屋の暖簾をくぐったいい大人が、いきなり「玉丼ね」と言ったら、「やだあの人、お金がないのかしら」「なんにも入ってない丼なんて頼む人がいるんだ~」なんて思われちゃうはず。お店の人からは「なんだよ~、もっと高いもん頼めよー」的な視線が返ってくることウケアイだ(笑)。

だから玉丼がなかなか頼めないでいる。ホントは大好きなのに。
そんな思いをずっと胸に秘めながら小林屋のカウンターに座っていたときに見つけてしまった。
「自慢のタレで作りました 特製玉子丼390円」の文字。
やっぱり安い。ほとんどのメニューが480円という低価格のお店の中でも、ご飯ものの最安値である。
ちょっと恥ずかしかったが、思い切って今日頼んでみた。カウンターで食券を差し出すと店員さんは店中に響く大声で「玉子ど~ん」と言うのだった。

しかし、目の前に現れたそれは、僕が知っている、僕が大好きな玉丼の姿ではなかった。もっと乾いた感じで、なるとの細切りの白と赤などが黄色の中に見え隠れしているビジュアルが、僕にとっての玉丼だったのだが。
ところが、これは確かに「特製」だけのことはある。高級な、そう1,000円超、2,000円にも迫ろうという親子丼のシズル感なのである。しかも、定食屋の丼モノにしては、かなりやさしいおいしさ。「特製」の冠に偽りなしである。さすが小林屋だ。

「はい、カツ丼お待たせしました」
隣のおじさんの前に置かれた丼からは、はみ出さんばかりにカツが並んでいる。それが
480円。
ということは、僕の玉子丼との差額は90円。たった90円を上乗せすれば豪華なカツ丼が食べられるのである。その場で揚げたサクサクのトンカツが90円?
ということはですよ、考えようによっては僕の玉子丼はとても高いのではないのか。玉子丼に390円を支払うのは、相当な贅沢な行為なのかもしれないぞ。
そう思うとさっきまでの恥ずかしさなんてすっかり失せて、僕は堂々と胸を張って小林屋の階段を下りるのだった。