帰りの東京駅9・10番線ホーム。キオスクの前は、これからライナーに乗り込む人たちの“買い出し”で賑わっていた。
酔っぱらいチームも、あれだこれだとやっている。
僕がポケットからSuicaを出したその時だ。腕をポンポンと叩く者がいる。
酔っぱらいが仲間と間違えて呼んでいるに違いない。なんだ、めんどくせーなぁ、
そう思って振り向くと、後ろにいた人と人の間から手が出ていた。そして、その人差し指が、チョイチョイと下を示したのだ。
えっ?と先をたどると、そこにはライナー券が一枚落ちている。
それが自分のライナー券だと理解できるまで一瞬、間があった。
「あっ、す、すみません、ありがとうございます…」と言ってはみたものの、その人の姿もわからず、声が届いたかどうかも確認できなかった。
我先にと、自分のことで精一杯だろう中、「あっしには関係のねえことでござんす」と見て見ぬふりをする人が多い中、わざわざ教えてくれるなんて…。
せめて、お名前だけでも。
「名乗るほどのモンじゃあござんせん…」
その人は、木枯らし紋次郎のように足早に去っていってしまったのだ。
でも、紋次郎さんは同じこのライナーに乗っている。湘南ライナーの仲間だ。そう思うと、なんだかちょっと嬉しくなる秋の夜の帰り道だった。
写真は、この話とは無関係の飯田橋駅にて。あの台に一度は乗ってみたい。