湘南ライナー日記 SHONAN LINER NOTES

会社帰りの湘南ライナーの中で書いていた日記を継続中

タイムスリップ昭和喫茶

2006-10-27 01:15:23 | B食の道


その老人は薄暗く段差の多い店内をゆっくりと、だがリズムよく僕の方へやって来た。
「いらっしゃいませ、メニューです」
なんとこの方、86歳だというから驚き。何千回、何万回と繰り返しているであろうこの動作に、ムダがない。しかし、腰が低い。こんな若造を、真摯な態度で迎えてくれる。恐縮してしまう。立ち上がって、お辞儀をしそうになった。
巨大な要塞のような日比谷の三信ビル。取り壊しが決まっているそのビルの1階に、ただ一軒残っているテナント、スナック&グリル『ニューワールドサービス』の店主だ。
近くで仕事があったので、ちょっと遅いランチに寄ってみた。


頼んだのは、もちろん『特製ハンバーガー』(コーヒーor紅茶とセットで800円/表のショーケースには『デラックスハンバーガー』とあった)。
なにしろ、三信ビルは戦後進駐軍に接収されていて、その米兵向けに提供されたのがこのハンバーガー。つまり、日本初。しかも、現在も当時のレシピのまま作り続けられているという。
「お待たせしました。ハンバーガーです」
わざわざ申し訳ございません。恐縮です。
おや、大きな輪切りのたまねぎだけが別添えだ。自分で載せる。たまねぎ嫌いへの配慮らしい。
アゴがはずれるくらい大きな口を開けてかぶりついた。
ん~、ウマイ。けど、普通の味だ。でもね、最近はこの普通のやつにお目にかかることが少ないから嬉しくなるんだ。
あの店この店を思い浮かべた。
ザッツ喫茶店というようなレトロな雰囲気が、懐かしい味をいっそう引き立ててくれる。タバコの臭いにも目を瞑ろう。
見たこともない古いレジスターが、また泣かせる。
「ありがとうごじゃいました」
僕が居た間、休むことなく店内を動き回っている老店主に感激しながら、帰途に着いた。
ビルの取り壊しの日も遠くないようなので、また折をみて行かねばなるまい。