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60年代初め、東映時代劇のブームが終わりを迎えた頃、日本美人の典型とも言える一人の女優が開花しようとしていた。その名は佐久間良子。古き美しい日本の女を演じさせたら右に出る者がいないほどの女優だった。そう私は確信している。
鶴田浩二、高倉健と共演した『人生劇場 飛車角』(1963年)、錦之助と共演した『花と竜』(1965年)、そして水上勉原作の三作品『五番町夕霧楼』(1963年)、『越後つついし親知らず』(1964年)、『湖(うみ)の琴』(1966年)、どの映画も名作だが、この中での佐久間良子は最高に素晴らしかった。いや、素晴らしいと言う形容すら越えている。彼女でなければどの映画も成り立たなかったくらいに思う。
彼女が演じるのは、明治・大正期から戦後間もない頃までの地方の女で、たとえば、北九州の港で石炭の荷揚げをして働く女(『花と竜』)、琵琶湖の近くの製糸場で糸を紡ぐ娘(『湖の琴』)、北陸の寒村農家の若妻(『越後つついし親知らず』)、そして京都の遊郭の娼妓(『五番町夕霧楼』)、横浜の遊女(『人生劇場』)などだ。彼女が演じるどの女も、しとやかで貞淑だが、匂うばかりの色気が漂っている。羞恥心と本能が体の奥で葛藤していて、女のその下腹部の火照りが伝わってくる感じ、とでも言おうか。佐久間良子はモンペの似合う女であり、赤襦袢の似合う女である。卑俗な言い方だが、男ならむらっと来て犯したくなる女!そう感じるのはきっと私だけではあるまい。日本的エロスの極致といった印象を与えるのは、『越後つついし親知らず』の中で、冬の間出稼ぎに行った夫を待つ若妻が、雪道で獣のような村の男(三国連太郎が演じている)に強姦されるシーンだ。
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佐久間良子がこれらの映画に出演した20歳代の最盛期は、ちょうど運悪く、テレビの普及によって映画の観客数が激減した時期だった。だから彼女の諸作品は見逃されてしまった。一世を風靡したチャンバラ映画と、後に東映最後の復活を狙ったヤクザ映画路線のはざ間にあって、彼女はお姫様役にもなれず、かといって暴力的なヤクザ映画には出る幕もなかった。『大奥物語』で一時脚光を浴びた後、結局佐久間良子は、藤純子に東映の看板女優の座を譲り渡し、映画界を去ることになった。一時期テレビ・ドラマに出ていたが、中年を過ぎて舞台に活躍の場を求める。そして今でも座長として主役で頑張っているが、若き日の彼女の映画はもっと評価されて良いのではないだろうか。
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