錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

桂長四郎さんを偲ぶ

2012-04-28 10:30:33 | 監督、スタッフ、共演者
 美術監督の桂長四郎さんが亡くなった。87歳だった。
 桂さんは京都での錦之助映画祭りに何度も足を運んでいただき、また京都シネマではトークゲストにお迎えし、私が聞き手をやらせていただいた(2009年6月11日)。「青春二十一 第二巻」の日誌にはそのときのことが書いてあるが、この小冊子を桂さんのお宅へにお送りした二週間前(3月26日)に桂さんは亡くなっていた。お送りしてすぐ奥様からお電話をいただき、桂さんの逝去を初めて知らされたのだった。第二巻をご覧になられたら、あの童顔をほころばせ、きっと喜ばれたに違いないと思うと、お目にかけられなかったことが悔やまれてならない。桂さんとは何度かお話ししたが、穏健でとても真面目な方だった。


(桂さんと京都シネマのロビーで)

 桂長四郎さんは美術デザイナーとして、昭和22年東横(東映の前身)入社から昭和39年ごろまで東映一筋にずっと第一線で活躍された。最初に稲垣浩監督作品につき、その後松田定次、マキノ正博(雅弘)、中川信夫、佐々木康、伊藤大輔、田坂具隆といった名監督たちの作品の美術を担当された。錦之助出演作では、『任侠清水港』『おしどり駕篭』『浅間の暴れん坊』『弥太郎笠』『親鸞』『続親鸞』『反逆兒』『ちいさこべ』『源氏九郎颯爽記 秘剣揚羽の蝶』『関の彌太ッペ』などがある。


(京都シネマに展示した『弥太郎笠』のポスター)

 今私の手許に、京都シネマでのトークショーの時に、桂さんから前もっていただいたトークの原稿がある。トークの前に桂さんがちょっと打ち合わせをしたいとおっしゃり、こういうことを話そうと思っているんですがと手渡されたのがこの原稿である。私もこれまで何人かトークの聞き手をやっているが、原稿を書いてこられたのは桂さん以外にはいない。実際のトークは全くこの通りには行かず、違う話(桂さんが東横に入社するまで)に時間をとってしまい、桂さんが用意してきた内容とは相当離れてしまった。桂さんのご冥福を祈り、その原稿をここに紹介させていただく。

 美術デザイナーの桂長四郎でございます。
 振り返ってみると、中村錦之助さんを中心にして監督のマキノ雅弘さん、田坂具隆さん、伊藤大輔さんを始め、たくさんの方達との出会いを持ち、良い作品につかせていただけたことを幸せだったと思っております。
 先ほど観ました『弥太郎笠』は、子母沢寛の名作で、各社で撮られておりますが、この作品はマキノ監督好みの作品だと思っております。昭和35年(1960年)公開ですから、49年ぶりに観ました。マキノさんとはこの作品のほかに6本くらいやっております。
 『ちいさこべ』は、一昨日上映され、見せてもらいましたが、この話は江戸の大火で親と死に別れた孤児達を助け、一緒に生活していく若き大工の棟梁を、田坂さんは優しい目で描いた心の暖まる作品であったと思います。
 田坂さんはその昔、日活多摩川時代は『路傍の石』や『土と兵隊』といった心にしみる名作を作ってこられ、内田吐夢さんと昔の日活を代表する監督です。私が田坂さんと初めて仕事をしたのは、『親鸞』でした。これも時代劇ですが、むつかしい時代で、考証が大変でした。田坂さんという方は誠実で穏やかに話をされる方で、打ち合せにあたって私の意見をじっくりと聞いていただき、それをとり入れていただけたと思っております。田坂さんは終戦の年広島で被爆され、「桂さん、私はねェ、原爆の落ちた時、便所に入っていたから命が助かったんだよ」と言っておられたことを思い出します。当時白血病でおつらかったことだと思いました。
 この『ちいさこべ』のお話をいただいたのは私がちょうど『反逆兒』で毎日映画コンクールに入賞してその受賞に東京の東映本社へ寄った時、本社の方が田坂さんが私がこちらへ来るので是非会いたいとおっしゃっているので受賞式が終ったら必ず本社へ立ち寄るようにと言われ、式が終って本社へ訪れると、田坂さんとプロデューサーの小川貴也さんが待っておられ、次回にやる『ちいさこべ』の美術をやってほしいと言われて驚いたことがありました。監督からじかに指名されたことは初めてだったからです。
 準備して撮影に入りましたが、大工の棟梁の話ですから、大道具の係の古い方にお願いし、演技の指導、新築の家を建ち上げるまでの工程と立ち会ってもらい助かりました。
 そして江戸の大火の場面、焼け跡のセットも大変でした。オープンセットで作るわけにもいかず、近くにある宝プロダクションの空地に全部焼け跡の江戸の街を作りました。材料には焼けた木材をずいぶんと使いました。



(京都シネマに展示された『ちいさこべ』のポスター)

 今回は上映されませんでしたが、伊藤大輔監督の『反逆兒』は私の一番思い出に残る作品です。私と伊藤さんとの初めての出会いは小池一美さんというデザイナーについて早川雪洲の『あゝ無情 第一部』(レ・ミゼラブル)でしたが、二週間ほど九州ロケに連れて行ってもらい、私は監督の指名で捕り手役にかり出されたことを思い出します。
『反逆兒』は、徳川家康の長男である信康を家康は徳川の家を守るために殺させるという悲惨な話でしたが、その信康を演じた錦之助さんの演技は大変見事だったと思いました。
 その年の芸術祭で伊藤大輔監督が『反逆兒』で芸術賞を受けられてその祝賀会が行なわれた時、その席上で離れた席から私の方へ来られた錦之助さんから、「桂さん、良かったですね」と握手をしていただいたことがありました。錦之助さんはこの『反逆兒』で熱演されておられ賞をいただけると私達は信じていたのに、ご本人も残念だったと思います。まだまだ思い出はつきませんが……。伊藤さんとはその後、『源氏九郎颯爽記 秘剣揚羽の蝶』『この首一万石』と三本続いて仕事をさせていただきました。



(トークが終って、桂さんご夫妻と食事)


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2 コメント

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Unknown (雪ちゃん)
2012-04-29 19:18:29
”弥太郎笠””ちいさこべ”本当にいい映画でした。
”弥太郎笠”は5,6年前にビデオを買って大切にしまってあります。錦ちゃんの情趣に富んだお芝居が、脳裏に焼きついています。丘さとみさんも可愛かった!
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そうですね (背寒)
2012-05-08 18:27:23
ぼくも大好きです。
『弥太郎笠』の錦ちゃんは最高にカッコいい。丘さんも可愛いい。
『ちいさこべ』もいいですね。胸に滲みます。
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