錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『青年安兵衛 紅だすき素浪人』

2006-03-20 07:06:51 | 美剣士・侍
 先週の日曜、東京は新橋にあるTCC試写室で錦之助の上映会が催され、『青年安兵衛 紅だすき素浪人』を初めて見た。これは昭和31年に公開された東映の白黒映画で、ビデオ化もされていないため、なかなか見る機会が得られない作品だった。錦之助が若き日の中山安兵衛(のちの堀部安兵衛、赤穂浪士の一人)を演じたもので、原作は山手樹一郎、監督は河野寿一。河野監督はその後、錦之助が戦国武将を演じた傑作、『独眼竜政宗』と『風雲児織田信長』でメガホンを取ることになる。『青年安兵衛』には恋人が登場する。お世津役の田代百合子である。彼女は東映時代劇の初代お姫さま女優の一人で、あの『笛吹童子』でも錦之助と共演していた。ほかに、東野英治郎、堀雄二、浦里はるみ、片岡栄二郎、薄田研二など、懐かしい顔ぶれが脇を固めている。
 
 前半は、江戸へ向かう旅の途中。浪人安兵衛にいろいろな出来事が振りかかる。
 まずは、街道筋のお茶屋。酒を飲んでいる侍が安兵衛。やくざにからまれて、喧嘩が始まる。さっと笠を取って顔を見せた錦之助。なんとも若い!きりりと引き締まった表情は同じだが、いつもとちょっと顔つきが違う。目張りをしているからなのだ。錦之助は目千両である。こんなパンダみたいなメイクはしなくてもよいのに、というのが第一印象。
 次に、一人で旅している武家の娘お世津が登場。人足に襲われるところを助けた安兵衛は、お世津と道中を共にすることになる。二人は惚れ合う。安兵衛は手にぶらさげた大徳利を川に投げ捨ててしまう。お世津を無事江戸に送り届けるまで酒を断つことを誓うのだ。女にイイ格好を見せようとする錦之助。その初々しさが印象に残る。田代百合子はお世辞にも演技が上手だとは言えない。セリフも棒読みだが、相変わらず可愛らしい…。

 旅を続けていると、お世津を連れ戻そうと追って来た浪人(片岡栄二郎)が現れる。そして女の奪い合いから安兵衛はこの浪人と真剣勝負をする羽目になる。この男、滅法腕が立つ。が、片岡栄二郎という男優は町人役ならまだしも、とても剣の使い手には見えない。腰がふらついて、全然強そうでない。錦之助がこんなヤサ男に負けそうになることが信じられないが、まあ、そこは許そう。仲裁に入った侠客の立花屋清五郎が堀雄二。彼がなかなか良い。気風が良くて男前である。安兵衛は斬られそうになったこの浪人から江戸の堀内道場のことを聞き、剣の腕を磨こうと決心する。
 
 さて、後半。江戸に着いて、お世津を立花屋へ預けると、安兵衛は堀内道場を訪ね入門を求める。ここがこの映画のハイライトだ。後見人がいないという理由で入門を断られ、道場の門前で座り込みを続ける安兵衛。降りしきる雨の夜、そこへ老侍の菅野六郎右衛門(東野英治郎)が近寄って来る。ずぶ濡れの安兵衛に声を掛け、傘を差し出す。なんと後見人を引き受けてくれると言うのだ。錦之助と東野英治郎のツー・ショットが胸にじーんと来て、最高に良い。東野はテレビの水戸黄門で有名だが、昔からこんなに老けていたのかと驚く。後年の水戸黄門とちっとも変わらないのだ。しかし、さすがに芸達者。渋くて温かみのあるイイ味を出していた。
 入門後、道場で稽古に励む安兵衛。めきめき腕が上がっていく。一番下にあった名札が毎回掛け直され、どんどん順位が上がっていく描写が面白い。剣術の上達も速いが、画面の展開も急ピッチで、思わずほほ笑みたくなるほど小気味良い。

 しかし、後半の途中からストーリーがちょっと支離滅裂になる。ラストシーンの高田の馬場での決闘へと展開を急いだのだろう。無理矢理辻褄を合わせたような不自然な場面も目立ってくる。
 道場の門弟たちにだまし討ちに合い、逃げ込んだ掘部弥兵衛(薄田研二)の屋敷でその一人娘に安兵衛が一目ぼれするような場面があるが、お世津という許嫁がいるのにどうも解せない。あとの伏線のつもりなのだろうが、取って付けたようでおかしい。次に道場を破門されただけで、安兵衛が自暴自棄になって酒浸りになる理由もわからない。また、雑踏で襲われたお世津を死なしてしまうところも不自然だと感じた。東野英治郎が家老の屋敷で諫言し、争いになって互いに刀を抜きそうになる場面で、急に画面が切り替わってしまう。てっきりその場で東野は殺されたのかと思ったら、高田の馬場で決闘する話になって、どうしても前後がつながらない。この辺は編集上の問題もあったかもしれないが、シナリオの構成にも欠陥があるように思う。前半から後半の途中まで、作品の出来ばえが良かっただけに、惜しいなと思った。

 最後は、阪妻の『血煙高田馬場』でも有名な場面。手紙を見て安兵衛が血相を変え、おっとり刀で走るところ。そして、駆けつけた馬場で堀部弥兵衛の娘から紅だすき(白黒なのでわからないが…)をもらうと、仇敵に立ち向かい、ばったばったと切り倒す、あの十八人斬りのクライマックスである。この辺の立ち回りはいかにも昔ながらの東映時代劇で、ロングショットとミディアムショットを交え、流れるような移動撮影であった。しかも、安兵衛の錦之助は二刀流である。振り回す刀も軽やかで、刃が体に触れないのに相手が倒れていく。これがまさしく懐かしいチャンバラなのだ。これを人はリアリティがないと言うかもしれない。血も出なれば、斬られた者の断末魔の表情もない。『子連れ狼』の拝一刀の殺陣とは大違いである。しかし、リアルな描写を見慣れた目には、それがかえって奥床しく、格好良く感じられたのも事実である。


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4 コメント

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錦ちゃん安兵衛 (どうしん)
2006-03-23 12:24:14
初見で、一回観ただけなのに的確な鑑賞に脱帽です。私は封切当時観て以来の観劇でした。

ファンがよく陥る錯覚ですが、錦ちゃん安兵衛

がすばらしくて、長い間、安兵衛のイメージが

ぬけ切れませんでした。背寒様の疑問に思われた後半とのつながりですが、何か場面がぬけて

いるように思っているのですが・・・

 河野監督の大作ではないが、佳作の一つで好意的な批評が多かったと、錦之介様の「わが人生悔いなくおごりなく」に記しておられます。
安兵衛のこと (背寒)
2006-03-23 14:04:13
どうしん様、コメントありがとうございます。

錦ちゃんの安兵衛、私はこの間初めて見ました。「赤穂浪士」や「忠臣蔵」の堀部安兵衛は誰が演じていたか忘れましたが、養父の弥兵衛役はいつも薄田研二だったと思います。

安兵衛といえば、高田の馬場で仇討ちをやるまでの中山時代の話が有名ですが、確か安兵衛役を他の俳優が演じた東映映画があって、昔見た覚えがあります。それが何という映画で主役が誰だったか、思い出せません。もちろん阪妻ではなくて、大友柳太朗だったような気もして…。

錦之助の『紅だすき素浪人』は山手樹一郎の原作を読んでいないのでよく分かりませんが、道場に入るまでの前半が長く、それで後半が急ぎ足になったように思います。おっしゃるように、編集の段階で、カットした部分も多かったんじゃないでしょうか。

「わが人生悔いなくおごりなく」というのは、本なのですか、それとも雑誌の記事なんですか?教えてください。

わが人生(みち)悔いなくおごりなく (やました)
2006-03-25 07:29:46
というのは、錦之助さんの自伝です。

新品を購入するのは最近さすがに難しいですが

中古ならたまに出品されています。

Amazonの中古で探してみてください。
探してみます (背寒)
2006-03-25 10:28:00
やましたさん、どうもありがとう。

また、何かあったら、質問しますので、教えてください。

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