錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『笛吹童子』(その3)

2006-09-18 11:00:42 | 笛吹童子

 先週、池袋の映画館で、『笛吹童子』三部作を観たことはすでに書いた。その後、ビデオで全編見直し、よせばいいのに昨晩もう一度ぶっ通しで観てしまった。今、私の頭の中は、『笛吹童子』でいっぱいである。場面場面が浮んでは消え、消えては浮んで……、もう気が狂いそうなほど。
 霧の小次郎に扮した大友柳太朗の不敵な顔と、胡蝶尼役の高千穂ひづるの陽気な笑顔が頭の中を交錯している。「ウッワハッハハ」と笑う大友の太い声も耳から離れない。古井戸の前で唱える高千穂のおまじない、「出て来い、出て来い、上がって来い、魔法の柱を登って来い」という甲高い声も離れない。高千穂が長い髪を振って引っ張ると、井戸の底から、ざんばら髪の亡者のような斑鳩隼人(楠本健二)がぬーっと浮かび上がって来る。このシーンが二回か三回かあって、印象に強く残っている。魔法使いの婆さんの姿も夢に現れて来そうだ。鼻を高くするため粘土みたいなもの付けていたなー。この婆さんを演じたのは千石規子で、よくやったと感心する。

 錦之助のことも書かなくてはまずいだろう。菊丸である。だが、どうも印象が薄い。笛を吹いている涼しげな顔しか浮ばない。この映画の出演時、錦之助は21歳である。顔にあどけなさが残り、可愛らしさは感じるが、水もしたたるイイ男とまでは行っていない。男っぽさはなく、美少年でお小姓的である。とても成人した若者には見えないと思う。菊丸は、そのタイトル通り『笛吹童子』の主人公であるはずなのだが、この映画では脇役的存在になっていた。全篇を通じ、出番もそれほど多くなかった。錦之助の立ち回りもほとんどなかった。刀は最後に一度抜いただけである。菊丸は武士を捨て、平和回復のため、面作りに専念する。そういう設定だから、悪者に対しても手を出さなかったのだろう。笛を吹いたり、面を彫ったりしているだけで終わってしまった。『里見八犬伝』の犬飼現八の方がカッコ良かったと思う。ところで、菊丸が留学先の明の国で世話になったあの娘はどうしたのだろう。第一部に登場する面作りの先生の娘である。恋人だったのに、別れたきりになってしまった。錦之助が出て来て、すぐラブ・シーンもどきの場面があったのにはちょっと面食らったのだが……。
 萩丸の千代之介はもっと印象が薄い。思い出してみると、第二部には確か全然出て来なかったと思う。千代之介の印象的なシーンと言えば、やはり、しゃれこうべの面をかぶされて取れなくなった場面である。千代之介は、立ち回りが多かったが、下手だなーとつくづく思った。萩丸の千代之介はどうも個性がなかった。正直言って、『紅孔雀』の浮寝丸の方がずっと良かった。

 桔梗の田代百合子のことは、ご年配の隠れファンが多いので、変なことを書けない。『笛吹童子』を観た当時の少年たちのほとんどが一遍で熱烈な田代ファンになったことを私は知っている。純情可憐な桔梗役の田代をけなそうものなら、オールド・ファンに袋だたきにされそうで恐いが、私は彼女の緊縛シーンが目に焼きついている。この映画で桔梗は何度縛られたことだろう。三回、いや四回あった気がする。田代百合子は、どことなく陰影があり、マゾ的な雰囲気が漂うエロティックな女優さんだなーと私などは感じるのだが、賛同してくれる方がいるかどうか。斑鳩隼人が知らないふりをして、ムチで折檻するシーンがあるが、その時田代が身を屈めて、打たれるたびに悩ましい声を上げたところが私は忘れられない。また、霧の小次郎に嚇された時の、「堪忍して!」「助けて!」という声も耳にこびり付いている。
 『笛吹童子』の大きな魅力の一つは、陰性の田代百合子と陽性の高千穂ひづるの競演にあったと思う。高千穂ひづるは演技もうまいし、宝塚出身だけあって、輝いている。それに対し、田代百合子はいかにもシロウトっぽく、控え目で、そこがまた良かったのかもしれない。

 桔梗の父親、上月右門役の清川荘司の間抜けぶりも妙に頭に浮かんでくる。漂流して無人島に潜んでいたり、しゃれこうべの面をかぶった主君の萩丸を谷底に突き落としたり、満月城の抜け道に隠れていて萩丸に襲い掛かったり、馬鹿さ加減に飽きれてしまう。演技も下手。だが、ちょこちょこ登場するので、目に付く。女房役の松浦筑枝は、さすがにうまかった。堂々とした所作と落ち着いたセリフ回しに感心した。息子の上月左源太に扮した島田照夫(その後片岡栄二郎と改名)は、父親役の清川荘司に負けず、頼りなかった。第一部で母親の松浦に命令され、援軍を頼みに行くのだが、そのままどこかへ行ってしまい、第二部は登場せず。第三部の終わりでやっと現れたと思ったら、白鳥党に入っていた。

 『笛吹童子』三部作は、はっきり言って、幼稚で矛盾だらけのストーリーだった。しかし、幻想的なロマンに溢れたこの冒険活劇は、戦後の窮乏時代に育った子供たちに夢と憧れを与え、一世を風靡することになった。今この映画を観ると、奇想天外、荒唐無稽を通り越して、バカバカしいと思われる部分も多い。今の若い人や子供たちがこの映画を観たら、どんな感想を述べるだろうか。もしかすると漫画の方がずっと面白いと言うかもしれない。私自身、前にも書いたように、この映画をリアルタイムで観て感動したわけではないので、懐かしい思い出を込めてこの映画について熱っぽく語ることができない。昔も今も変わらない初恋の人に再会した時のような気持ちにはどうしてもなれないのだ。かといって、この映画を生まれて初めて観た若い人のように、時代背景を抜きにして、まったく新鮮な気持ちで感想を述べ、面白がったり、馬鹿にしたりすることもできない。そんなわけで、支離滅裂な感想になってしまったかもしれないが、お許し願いたい。




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