錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『御用金』

2006-10-12 02:38:22 | 美剣士・侍

 実を言うと、私は『御用金』(昭和44年)をずっと見逃してきた。なぜ封切りで観なかったのか、その理由はもう覚えていない。錦之助の映画はこの頃ちゃんと観ていたのに、『御用金』だけは観なかった。ともかく、この映画、ずっとビデオ化されていなかった。今でも日本国内ではビデオにもDVDにもなっていない。それが、三ヶ月ほど前、オークションで『御用金』のアメリカ版DVDが出品されているのを見つけて驚いた。そして、早速購入した。
 だが、入手してすぐ観ようしても、観られない。馬鹿なことに私は、日本とアメリカではDVDのシステムが違うことを知らなかったのだ。それにしても、アメリカ版のDVDが日本製のプレーヤーでは観られないというのはなんとも不便な話である。しかし、最近、その観方を人から教わり、パソコンに特別なソフトを入れて、ようやく観ることができた。観る前に私はちょっとドキドキした。もしかしてコトバが全部吹き替えで、英語だったらどうしようか?錦之助が英語を喋るかもしれない。それも面白いなーとちょっと期待したのだが、幸いと言おうか、あいにくと言おうか、英語の字幕スーパー入りだった。
 このアメリカ版DVDについて少し触れておこう。『御用金』(タイトルも“Goyokin”)は、“Tokyo Shock”(東京ショック)というシリーズの1本で、時代劇ではほかにテレビの『仕掛人藤枝梅安』(渡辺謙主演)と『座頭市』(勝新太郎主演)が発売されている。いかにもアメリカ人が好みそうな娯楽時代劇を選んだと思う。
 
 さて、『御用金』だが、私は結構面白く観た。二時間以上の長い映画だったが、最後まで飽きずに観ることができた。いかにも五社英雄らしい映画だなと思った。この映画、言ってみれば、ホラー映画とマカロニ・ウエスタンとブルース・リーのドラゴン物を混ぜくって娯楽時代劇に仕立てたような作品だった。しかし、決して安っぽい作りではなかった。壮大なスケールで、これでもかとばかりに見せ場を盛り込み、大向こうを唸らせようとした大作だった。この映画は本邦初のパナビジョンでもあり、またフジテレビと東京映画の共同製作であった。製作費もずいぶんかけたのではないかと思う。
 主演は仲代達矢で、相手役が丹波哲郎、それに浅丘ルリ子と司葉子が共演していた。錦之助はと言えば、特別出演といった感じだった。が、聞くところによると、この役はもともと三船敏郎がやることになっていた。しかし、三船が途中降板したため、錦之助が急遽代役を演じることになった。そこで、錦之助が日程を調整し、出演したという経緯があったらしい。だから、錦之助の出番が少なくなったのも当然だったのだろう。
 あらすじはこうだ。越前(福井県)鯖井藩の重臣・帯刀(たてわき)(丹波哲郎)が、財政困窮のため、佐渡から運んでくる御用金(金の延べ棒)を積んだ船を沈没させ、その御用金を奪い取るという計画を遂行する。その時御用金を船から引き揚げる手助けをした小さな村の漁民たちを皆殺しにしてしまう。藩の主謀者たちはこれを「神隠し」にあったと見せかける。この策謀に参加した藩士・孫兵衛(仲代達矢)は帯刀の残酷なやり方に反感を持ち、脱藩して浪人になる。孫兵衛(仲代)は帯刀(丹波)の親友でもあり、彼の妹(司葉子)を妻にしていたが、離縁してしまう。孫兵衛は江戸で鯖井藩が差し向けた刺客に会い、帯刀がまた、「神隠し」の手を使って、御用金を奪い取ろうとする策謀を知る。そして、今度こそこれを阻止するために、藩に戻ろうと決意する。途中で皆殺しになった漁村出身の女(浅丘ルリ子)や左門という謎の浪人(錦之助)に出会い、彼らの協力も得て、孫兵衛は帯刀が送った刺客たちと闘う。左門という浪人は、藩の策謀を探ろうとする公儀の隠密だった。
 ストーリーはやや複雑だったが、こういう娯楽時代劇はストーリーについて深く考えない方が良いかもしれない。叩けばボロが出て来ると思う。実際ストーリーの運び方や登場人物の行動については首をかしげたくなる点も多かった。
 ところで、仲代達矢と錦之助の共演はこの映画が初めてだった。以後、『地獄変』『幕末』と火花を散らす共演が続くが、この映画は小手調べみたいなものだった。錦之助が仲代に花を持たせ、脇に回った感じを受けた。仲代がシリアスな演技で通したのに対し、錦之助はひょうきんでとぼけた味を出していた。

 『御用金』は、今観ても物凄い迫力を感じる。映像も美しく、切れ味鋭いカットのつなぎも見事だった。これは、何よりもセットでの撮影を少なくしたのが良かったのだと思う。雪の多い冬の荒涼とした海辺をロケ地(下北半島だったとのこと)に選び、そこで映画の大部分を撮影したことが、画面を素晴らしいものにしていた。自然の厳しさと風雪にさらされ、必死で映画を作っているスタッフや俳優の熱気みたいなものが画面から伝わってきた。多分こんな娯楽時代劇はもう二度と作れないのではないかと思う。多額の制作費をかけて、これほど見世物的な娯楽時代劇を製作しようとする意欲的なプロデューサーも監督も、また時代劇をやれるホンモノの俳優も、いなってなってしまったからだ。

 最後にこの映画の見どころをいくつか挙げておく。居合い抜きの凄さや殺陣のすさまじさは映画を観て楽しんでもらいたい。そのほかの場面で私がいいなと感じたところを書いておく。
 一、浅丘ルリ子のあでやかさ。初めは漁村に帰ってくる娘姿で登場するが、途中から鉄火肌の女賭博師に変身する。全編モノトーンに近い画面の中で、彩りのある彼女の姿が引き立っていた。
 二、ファーストシーンに登場する無気味なカラスとその群れ。
 三、仲代達矢が、寒さで刀が握れないほどかじかんだ手を妻の懐で暖めるところ。司葉子が仲代の両手を自分の胸の中に入れさせ、暖めさせるのだが、これがこの映画で唯一のエロティックな場面だった。
 四、これはラストシーンだが、仲代と丹波の雪の中での決闘。最後、二人が抱きつくように雪の中に倒れ、丹波の体から真っ赤な血が流れ出すところ。ここはいかにも五社英雄がイメージし、描きたかった映像のように思った。



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2 コメント

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撮影、岡崎宏三 (竜子)
2006-10-12 21:26:51
ビデオがでてないのですか?良い映画なのに。

私は阿佐ヶ谷で観ました。その時は確か「岡崎宏三の世界」といったようなタイトルで何本かの映画を上映していました。

撮影技師としてはかなり有名な方なのですね。私は全然知らなくて、単に錦之助さんの出ている映画だからという理由でいきました。

確かに素晴らしい映像の世界が楽しめました。この映画は大きなスクリーンで観ることをお勧めします。

錦之助さんらしさと言いますか、錦之助の良さが全然出てない役なので、錦之助ファンとしては欲求不満な映画ですが、映画自体はとても良く出来ていると思いました。カラーなのに、何故かモノトーンと錯覚するぐらいの広大な雪景色が眼に焼きついています。

仲代と丹波さんの斬り合いのシーンでは、二人とも殆ど動かなくて、それでいて手に汗にぎる場面の連続で、東映の時代劇と違って、こんな殺陣もあるのだと思いました。殺陣には踊りの素養があると形が綺麗だと思われてましたが、なくても立派に殺陣が出来るものだな~と映画を観ながら思ってました。

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撮影のこと (背寒)
2006-10-13 19:59:14
確かに映像が美しくて良かったですね。この映画は、スクリーンで観たら、迫力満点で、もっと楽しめただろうなと感じました。

ところで、岡崎宏三という人は、晩年の木下恵介や今井正の映画も撮影していたようですね。「戦争と青春」「父」「新・喜びも悲しみも幾歳月」など。また、宮城まり子が監督した映画の撮影もやってました。以前は東宝専属のカメラマンで、森繁の「駅前シリーズ」を撮っていたとのこと。調べて、初めて知りました。

五社英雄の時代劇の殺陣は、独特ですね。錦之助の「丹下左膳」もぜひご覧になってください!

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