ブログ 「ごまめの歯軋り」

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北山修・橋本雅之著 「日本人の原罪」 講談社現代新書

2009年11月24日 | 書評
イザナキの「見るな禁止」を破って「見畏み、逃げましき」が日本人の原罪だ 第1回

 北山修氏といえば私たちには、1970年代のフォークソング時代を代表するグループであるザ・フォーク・クルセダーズやシューベルトの一員で作詞家であったという記憶が優先する。小さな橋田のりひこ氏の横に立つ背の高い痩せた青年であったと記憶する。有名な曲として「戦争を知らない子供達」、「帰ってきた酔っ払い」、「風」、「花嫁」、「さすらい人の子守唄」などがあり、氏は当時フォークグループのメッカであった京都出身で、京都府立医科大学の学生であった。グループ解散後は医者になったという噂しか知らず、長い間私の脳裏から消えてしまっていた。それから30年以上たって先日ふと本屋の新書コーナーを覗いていたところ、氏の著作になる本書を見出して早速読んだ。本書の末尾のプロフィールを見ると、北山氏は京都府立医科大学卒業後、イギリスロンドン大学精神医学研究所でフロイトの精神分析学を研修し、帰国してから北山クリニックを開業、現在は九州大学大学院人間環境学研究員教授であるそうだ。専門は精神分析学で、主な著書に本書の基を為す、「悲劇の発生論」、「幻滅論」、「劇的な精神分析入門」といった本がある。歌手生活から見事な本業復帰である。フォークソングは若気の至りに過ぎなかったのか、偉大な道草だったのか。いずれにせよ立派な精神医学者であられる。又その視点が面白い。精神分析者は患者個人のプライベートに立ち入って書く事は憚れるので、古事記という神話を題材にしてイザナキをクライアントにして精神分析を行い、それを日本人全体の「原罪」まで拡張するという離れ業をやってのけた。共著者の橋本雅之氏は三重県伊勢市にある皇学館大学文学部卒業して、現在皇学館大学社会福祉学部教授で、専攻は国文学、神話学だそうだ。北山修氏より11歳年下の文学者である。主な著書に「古風土記の研究」などがある。風土記や古事記を意味のある読み方を志し、北山氏の「悲劇の発生論」の「見るな禁止」論に触発され、2007年猿田彦大神フォーラムで北山氏と対談したことが、本書を生んだ契機である。
(続く)


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