ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 田中秀明著 「日本の財政」 中公新書 (2013年8月 )

2014年06月05日 | 書評
日本の財政改革の失われた20年と財政再建の道筋ー財政規律と予算制度改革 第13回 最終回

5) 予算と政治ーガバナンスの強化と財政の展望 (その2)

 今後の財政を見据えたうえで、財政再建の課題を考えよう。自民党の麻生政権は2009年当初予算は一般会計赤字は44兆円で、更に補正予算として10兆円を超えた。2011年の民主党政権でも赤字は54兆円に達した。OECD統計による2013年の日本の財政赤字は対GDP10.3%、総金融負債は230%を超えた。日本はかってアメリカと同じように小さな政府といわれたが、社会保障給付金は2010年決算ベースで約104兆円であり、うち約50%が年金、約30%が医療、福祉関係が1%であった。2009年のOECD統計によると、日本の社会支出(高齢、遺族、障害、医療、家族、職業訓練、失業、住宅など)は対GDP比27%となり、これは上位9番目になり、OECD平均を上回った。2015年に消費税は10%となるが、「成長シナリオ」でも2020年度のプライマリーバランスは赤字1.3%である。政府が掲げた2020年で黒字化するという目標はすでに破たんしている。「慎重なシナリオ」では2020年には赤字2.7%となる。IMFは対日審査で財政構造改革の重要性を指摘した。ギリシャ危機の見られたように借金を海外に頼るとリスクが高いが、日本国債の総残高948兆円のうち海外の所有は9%に過ぎず、そういう意味では安定しているといえる。日本国債は国内の貯蓄で赤字を賄ってきた。日銀2012年統計によると家計金融純資産は1194兆円である。一般政府の総債務が1122兆円であるので、もうこれ以上は政府は国民から借金できないはずである。近い将来財政赤字と並んで国の経常収支が赤字化することになるかもしれない。生産人口の減少は当面避けられるものではない既定のトレンドとなっているため、税収の低下と社会保障負担が迫っている。そこで著者は財政再建の3つの課題を掲げる。これで本書のまとめに代える。

①危機感の共有: 日本が経済成長率の低下から貯蓄率の低下、長期金利の上昇、財政再建の遅れが積み重なると、これまで通りに借金を続けることは不可能になり、信用不安が拡大する羽目になる。財政赤字は政治家・官僚そして国民が改革を回避してきた結果である。日本で一番欠けているのは危機感の共有と政治家のコミットメント(やる気)である。
②予算制度改革: 拘束力のある中期財政フレームと支出ルール(ベースライン)、独立財政機関の設置、財政責任法の制定
③社会保障制度改革: 社会保障改革は自民党政権時2008年「社会保障国民会議最終報告」をまとめ、民主党政権では2011年「社会保障・税一体改革成案」がある。我国の社会保障の根幹である「社会保険」の矛盾(保険だけで賄われるものではなく、一般財源を投入している。税と保険が混合した制度)した曖昧な制度となっている。基礎年金、国民健康保険、後期高齢者医療制度の改革が求められる。こうした議論がないとたんに不足分賄う議論に終わる。消費税を増税しても、一般財源を社会保険制度になし崩し的に投入することは何ら問題解決にならない。

(完)


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