ブログ 「ごまめの歯軋り」

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足立恒雄著 「数の発明」

2021年08月10日 | 書評
京都市  京セラ美術館「水上茶室」

足立恒雄著 「数の発明」 

岩波科学ライブラリー(2013年12月)

第2章) 現代における数体系

第1章では数と量の概念が統一され、そして負数も数体系に組み込まれたことを示した。第2章では現代数学で数体系をどのように認識しているかを問題とする。まず基本となる自然数の体系を示し、整数、有理数、実数、複素数の体系へ進める。自然数の基礎付けをする方法を4つ示す。
① 0、あるいは1から順番に構成する方法(自然数論を抽象的な数の概念に高める。同一視、類別)
② 公理系によって間接的に規定する方法(ペアノ、ユークリッド以来の公理系)
③ 集合論によって全体から捉える方法(デデキント、カントール 現代数学の基本思想)
④ 論理に還元する方法(フレーゲ 算術の論理化、ラッセルのパラドックスによって消え去る)

2-1) 自然数の素朴な定義
紅白歌合戦や運動会の玉入れの数を数える方法と同じである。あるいは棒切れを並べるごとに一つづつ置いてゆく方法である。その棒切れにⅠ、Ⅱ、Ⅲと番号を付ける。数の勘定の元になる集合の見本を作ることである。1871年グラスマンは1と+の記号の羅列で自然数を表した。
1,1+1,(1+1)+1,((1+1)+1)+1,・・・ の代わりに1,1+1=2,2+1=3,3+1=4・・・と和を定義したり、差・積を定義する。グラスマンは最初から負数を導入したが、西欧において最初の負数の導入となった。1949年高木貞治は「数の概念」において、負数も同時に扱われた。ここでグラスマンは・・・という内容を説明するために「再帰的方法」を採用した。グラスマンの記号的自然数の再帰的定義とは、1,+を記号として
① 1は自然数である
② nが自然数であるなら、n+1も自然数である
③ このように定義した自然数だけが自然数である。
1,1+1=2,2+1=3,3+1=4・・・と定義される。実はこれらは意味を持たない記号に過ぎない。だから「記号的自然数」という。しかしこの方法の方が、現代数学の集合論で自然数を定義する方法への整合性が高い。ツエルメロやフォン・ノイマンの方法が現在では標準的な自然数の定義とされた。
O+1=1,1+1=2,2+1=3,3+1=4・・・を集合論で書き直すと、0=∅(空集合)として、∪を集合の和とすると、
1={0}=0∪{0}
2={0,1}={0}∪{1}=1∪1 、
3={0,1,2}={0,1}∪{2}=2∪{2}
4={0,1,2,3}={0,1,2}∪{3}=3∪{3}
と表記する。これを集合論的自然数の再帰的定義という。
① 0=∅は自然数である。
② nが自然数であるとき、n∪{n}も自然数である。n∪{n}の事を「次の自然数」と呼び、
n’=n+1と記す。
③ このように定義された自然数だけが自然数である。
分かりにくい定義だという人にとっては、集合論的自然数だと割り切って捉え、この集合nと1対1の対応がつく集合もしくは類をn個の要素を持つとする。フォンノイマンが定義した集合的自然数と呼ぶ方法が現在では際立って使いやすいとされる。算法の定理は以下である。
① 加法の定理: x+0=x, x+y=y+x, x+(y+z)=(x+y)+z
② 乗法の定理: x・1=x, x・y=y・x, x・(y・z)=(x・y)・z
③ 分配法則: x・(y+z)=x・y+x・z
これまでの議論は無限集合を意識したものではなかったが、再帰的定義によくみられる・・・・という表現は数学的論理学における論理式としてはあまりに素朴である。現代的な論理の厳密性という観点では不満が残る。

(つづく)




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