ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 島田雅彦著 「徒然草inUSA」  新潮社新書

2010年02月28日 | 書評
自滅するアメリカ 堕落する日本 第2回

 著者は大学在学中の1983年、『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビュー、芥川賞候補となる。1984年、『夢遊王国のための音楽』で野間文芸新人賞受賞。デビューから1987年まで6度芥川賞候補に挙げられたが、全て落選、最多落選記録の持ち主である。1888年から1年間ニューヨークで暮らした。1991年にソビエト、チベット、ケニア、ジャマイカと、世界各地を放浪。1992年、『彼岸先生』で泉鏡花文学賞を受賞。台本を島田氏が担当、三枝成彰が作曲を行った《Jr.バタフライ》は2004年にオペラ化されており、他の音楽作品としては、オペラ《忠臣蔵》やカンタータ《天涯。》、合唱曲《また、あした》がある。2006年、『退廃姉妹』で伊藤整文学賞を受賞、2008年、『カオスの娘』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。多才な小説家である。デビュー時より「サヨク」を自称し、その後「ヒコクミン」を名乗るなどして体制を皮肉る立場を取っていた。その容貌からしばしば「文壇の貴公子」と呼ばれており、脇役としてたびたび映画に出演した。

 著者は1988年6月から1989年6月まで1年間ニューヨークに滞在した。そして20年後2008年7月から2009年3月にかけた9ヶ月間再度ニューヨークを訪れた。初回の訪問時はレーガン大統領の小さな政府という新自由主義が流行の時期で、社会主義国が崩壊の危機に瀕していた。今回の訪問時はアメリカ大統領選の最中でオバマ大統領の選出を見た。著者はこの時にみた大統領選を契機としてアメリカ発世界金融危機後のアメリカの行く末を案じたのが本書という随筆である。そして歴史的に17世紀の西欧合理主義にはじまったアングロサクソン民族の興隆と没落というスパンで世界史の流れまでに思いを寄せるのである。本書は著者がいうように政治学でも経済学でもない、どちらかと言えば文明論、更に言えば日本的「盛者必衰の理」という文学論に持ってゆこうとする書であろう。そういう意味であまり肩に力を入れてはいけない、流れるように読まなければならない。だから「徒然草」なのである。悪くい言えばつかみどころが無い論議というべきであろうか。
(つづく)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿