ブログ 「ごまめの歯軋り」

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文芸散歩 谷川徹三編 宮沢賢治童話集 「銀河鉄道の夜」 「風の又三郎」 岩波文庫

2013年07月28日 | 書評
イーハートーヴォの心象スケッチ 宮沢賢治童話傑作集 34話 第9回

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宮沢賢治作 「風の又三郎」 他18篇 (1)
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16) 風の又三郎
 前書「銀河鉄道の夜」 他14篇に比べると、本書「風の又三郎」 他18篇には際立って異なる特徴が2つあります。一つは擬音表現が多いことで独特のリズムを持っていることである。2つは岩手弁の極端に訛った表現が多く、ちょっと標準語に慣れた私たちでも辞書がないと理解できないこともあるという点である。この2つの特徴はまさに宮沢賢治の童話の神髄をなすといっても過言ではないだろうか。まさにイーハートーヴォの世界である。風の又三郎の話の出だしは「どっどど どどうど どどうど どどう」で始まる。北風がぼうぼうと吹く有様をいう。谷川の小学校の9月1日、二百十日の日のことです。6年生が1人、5年生が7人、4年生が6人、3年生はなし、2年生が8人、1年生は4人の全校生26人の小学校です。秋の新学期が始まる日、風の強い朝、嘉助、佐太郎、耕助、最年長に一郎らが学校に着くと、教室に見知らぬ生徒が一人座っていました。嘉助は思わず「あいつは風の又三郎だ」と叫びました。先生の紹介で北海道ら転校してきた鉱山技師の息子である高田三郎だとわかりました。口をきりっと結んで意志の強そうな利発な男の子に見えました。父は北海道の会社から東北の山にモリブデンの試掘に来たのです。三郎は5年生に編入され、高学年の一郎、嘉助、佐太郎、耕助、悦治らと仲良くなりますが、どうも耕助は三郎に意地悪く当たります。さっそく三郎は遊び友達を見つけて、野原で馬の世話をして難儀したり、葡萄取りに出かけ耕助と言い合いになりますが三郎はうまく仲直りをします。川に泳ぎに出かけ発破で小魚を取ったり、佐太郎は魚の毒(麻酔薬)で失敗したりしました。川の中で鬼ごっこをしたりしましたが、三郎は何をやってもうまく溶け込んで遊びも上手でした。しばらくして風と雨が強く降った翌朝一郎は何か胸騒ぎがして学校に駆け付けますが、三郎は来ていません。三郎のお父さんは鉱山に見切りをつけて北海道に戻ったので、三郎は今日から転校しましたという先生の説明を聞きました。三郎は風と共にやってきて、風と共に去って行きました。

17) セロひきのゴーシュ
 ゴーシュは町の活動写真館でセロ(チェロ)を弾く新米の楽士でした。ところが一番下手でしたのでいつも(金星音楽団の)楽長から叱られてばかりです。10日後の第6交響曲の演奏を控えて楽団は必死の練習をしていますが、ゴーシュばかりが皆の足を引っ張っていました。ゴーシュの家は町はずれの水車小屋にありました。楽団の練習後ゴーシュは小屋で眠るのも忘れて練習していました。するととんとんと小屋の戸を叩くものがいます。三毛猫はゴーシュのセロを聞くためにやってきてシューマン作トロイメライを注文しました。ゴーシュは腹を立てて「インドの虎狩り」をものすごい勢いで弾きだすと三毛猫はびっくり仰天して逃げ出しました。次の夜にかっこうが飛び込んできて「かっこう」(ドレミファソラシドという意味です)とセロで弾けと注文しました。ゴーシュが何度曳いても満足しません。ようやくゴーシュにはかっこうのドレミファソラシドが分かったような気がしましたが、夜明け前にゴーシュは怒ってかっこうを追い出しました。次の夜には狸の子がやってきて「愉快な馬車屋」というジャズを注文しました。狸の子は棒をもってセロの胴を叩いてリズムを取りました。狸が満足するまで練習して明け方に狸は急いで帰りました。次の夜は野ねずみの母親が子ネズミを連れてやってきて、この子の病気をセロで治療してくれと注文しました。野ねずみの母親が言うにはこの辺の動物はみんなゴーシュのセロで癒されているのだといいます。そこでゴーシュは子ネズミをセロの胴体の中へ入れて目を回すまで演奏しました。そしてああよくなったといって帰りました。こうして金星楽団の演奏会は大成功裏に終わり、ゴーシュは楽長さんや楽友から賞賛されるほどの演奏をしたということです。毎夜動物たちと血のにじむ練習をしてゴーシュは上達できたのです。

(つづく)


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