ブログ 「ごまめの歯軋り」

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環境書評  天野明弘著 「排出取引」 中公新書

2010年03月09日 | 書評
環境と発展を守る経済的手法 第3回

 環境政策は様々な手法を用いて実現を図る。直接的規制法、経済的手法、情報的手法(情報公開)が主たる手法である。なかでも経済活動を行う主体に対しては、排出を減らすことが経済的な利益をもたらすと考えられる動機を与える経済的手法に注目が集まる。排出取引制度は環境税や環境補助金などと並んで有力な経済的手法と考えられている。この制度は現在欧州で主流のシステムである「キャップアンドトレード」型では次の3つの特徴を持つ。
①中央政府または地方政府が一定期間に管轄地域内で排出することを認める総量を決め、汚染物質1単位の排出を承認する「承認書」を発行する(これを配分するという)。受け取った排出主体は期末に政府にその承認書を提出する。総排出量が承認書を超えるときは罰則が科せられる。政府管轄内の排出総量が守られた時は承認書のバランスが取れるようになっている。
②排出承認書を売買してもよい。高い削減コストがかかる企業は安いコストで過剰に削減した企業から承認証を買うことが出来ることがこの制度の根幹である。地域全体で削減量目標が守られるだけでなく、それが最も安いコストで実現されるのである。
③期の初めに配分される排出承認書には有償(オークション方式)と無償(グランドファザーリング方式)がある。有償(オークション方式)では排出主体は炭素コストを計算して応札する。排出主体には多額の費用が発生するがそれは政府の収入となり、一定割合で主体へ還元される仕組みがある。無償(グランドファザーリング方式)は過去の排出量に応じて削減量を引いて承認書が無料で配分される。主体に費用発生はないので政治的なムリがないので導入が容易である反面、企業に産業構造変換の動機が働かない欠点がある。

 排出取引とは「エミッショントレーディング」の訳であるが、これまで日本では「排出権取引」、「排出量取引」、「排出枠取引」、「排出承認証取引」などの言葉が用いられることがあったが、いずれも「エミッショントレーディング」の原意味と微妙にことなるので、本書では「排出取引」ということにした。すくなくとも排出は財産などでいう権利ではない。取引されるのは排出することに対する単位ずつの承認証(アロウワンス)である。従って「排出量」でも「枠」でもない。譲渡可能なのは排出アロウワンスであるが、実際に削減されたことを承認する「排出クレジット(削減証明書)」も取引される。EU指令によれば「エミッショントレーディング」とは排出することに関する譲渡可能な公的承認の取引であるとされている。
(続く)


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