アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

外務省文書で判明した「天皇訪米」の政治利用

2024年01月06日 | 天皇制と日本の政治・...
   

 能登半島地震、羽田空港衝突事故と、相次いだ重大事態の陰で注目されていませんが、見過ごすことができない報道がありました。

 <ブッシュ氏、天皇訪米「非常にいいシグナル」 92年の日米首脳会談>と題して、2日付の朝日新聞デジタルがこう報じました(抜粋、敬語表記はそのまま、太字は私)。

<1992年1月に来日したブッシュ米大統領と宮沢喜一首相の間で、89年に即位した平成の天皇陛下(今の上皇さま)の外国訪問をめぐる率直な会話があった。外務省が先月20日に公開した外交記録にあった。天皇の外国訪問に関し、日本の首相と外国首脳のやり取りが明らかになるのは異例だ。

 この日米首脳会談に関する当時の外務省のメディアへの説明は、ブッシュ氏が陛下をお招きしたいと述べ、宮沢氏が鋭意検討すると答えた、という内容にとどまる。

 だが、極秘指定を今回解かれた会談録によると、ブッシュ氏は陛下の招請について「来年(93年)を考えている。もし(92年11月の)大統領選で再選されなかったらどうなるかな。そういうことはまずないから心配しないでくれ」と語った。

 宮沢氏は「93年ということで真剣に検討させていただきたい」と回答。ブッシュ氏が対日貿易赤字などをふまえ「現在の難しい日米関係を総理と自分の手でぜひしっかりやっていきたい。加えて、陛下が訪米してくだされば非常にいいシグナルになる」と話すと、宮沢氏は「その通り陛下にもお伝えする」と応じた。

 日本の外交文書に詳しい波多野澄雄・筑波大名誉教授は「首脳会談で天皇の外国訪問について踏み込んでやり取りしたことを記す文書は異例だ。宮沢氏、ブッシュ氏とも国際親善の範囲を超えた役割を新しい陛下に期待していることがうかがえる」とみる。

 75年の昭和天皇以来2度目となる(天皇の)訪米は、92年大統領選でのブッシュ氏敗北を経て、「93年」から1年ずれて94年となった。>(写真右は当時の会談後の宮沢首相とブッシュ大統領=朝日新聞デジタルより)

 ブッシュ氏(父)は大統領選に向け、「貿易赤字」で「厳しい日米関係」の改善を図るために「天皇訪米」を要求し、宮沢氏もそれに応えようとし、明仁天皇に「その通り」伝えると述べたのです。

 「国際親善の範囲を超えた役割」とは、日米両政府による天皇の政治利用にほかなりません。

 明仁天皇の訪米については、かねてからその政治性が指摘されていました。

「夫妻(明仁・美智子夫妻―私)のアメリカへの旅の背後には、いつも両国間の政治的取引がうかがえる。…94年6月10日から26日までの即位後初めての訪米では、全米10都市を訪れた。…訪米の背景は相変わらずの経済問題である。…94年2月の細川護熙首相とクリントン米大統領との会談(注・93年8月に宮沢政権から細川政権に交代―私)が決裂し、深刻な事態になっていた。…会談が決裂した直後の「朝日」の世論調査では、「日米関係は良好」と答えている人はわずか20%、「そうは思わない」が64%に急増している。そこで急きょ、天皇の「ご出馬」が考えられたのであろうか」(高橋紘著『平成の天皇と皇室』文春新書2003年)

 幻となった「93年訪米」と実現した「94年訪米」。首相、大統領はそれぞれ変わりましたが、変わらないのは日米両政府首脳が「天皇訪米」の政治利用を図ったことです。

 これが「皇室外交」の実態であり、国家権力が「象徴天皇制」を必要とする理由の1つです(写真左は2016年1月の明仁天皇のフィリピン訪問)。
 「天皇の政治利用」が外務省の公式文書で裏付けられた意味はけっして小さくありません。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 能登・自衛隊の物資輸送は4日... | トップ | 日曜日記283・「キャンサーギ... »