17日、国産ロケットH3の打ち上げが失敗した。前日の16日から日本のメディアは繰り返し報道し、現地(種子島)には多くのファンが詰め掛けた。H3 はJAXA(宇宙航空研究開発機構)と三菱重工が共同開発した。
三菱重工は7日には国産ジェット機開発からの撤退を発表した。「累計で1兆円規模の巨費を注ぎ込んだ事業」(8日付共同配信)だった。それだけの税金を三菱重工は無駄遣いしたのだ。
しかし、三菱重工には「追い風」が吹いている。
「三菱重工は防衛産業に吹く予算大幅増額の追い風に乗り、次期戦闘機の開発に軸足を移す」(同共同配信)
三菱重工は今でも防衛省と年間4591憶円(2021年度)もの契約を結んでいる日本最大の兵器産業だ。この額がさらにハネ上がる。のみならず、岸田政権はさらに「防衛産業への支援強化」を公言している。
兵器製造だけではない。原発も三菱重工の主要事業の1つだ。岸田政権の「原発政策転換」によって、同社は「新型原子炉の開発を加速」(同共同配信)させるという。
兵器と原発。三菱重工は自民党の悪政の2本柱を担い、政府・自民党の大きな支援を得ているまさに「国策企業」にほかならない。
だが、日本社会はそれを「死の商人」として批判するのではなく、「日本を代表する企業」として賛美する。
余談だが、NHKの朝ドラ「舞いあがれ」で、主人公母娘の町工場を助ける「日本最大手の航空機メーカー」が登場した。その名は「菱崎重工」。それほど三菱重工のイメージアップを図りたいか。
安倍晋三元首相は三菱ととりわけ深い関係だった。安倍の実兄は三菱商事に入社以来、一貫して同社の幹部だった。
こうして日本ではわがもの顔の三菱重工だが、対馬海峡を渡れば評価は一変する。
日本がH3 打ち上げで沸いていた(と報じられた)16日、ソウルでは1人の老人が外国メディア向けに記者会見した。梁錦徳さん(91)だ。日本の植民地支配で強制動員された。韓国の最高裁が2018年秋、強制労働させた日本企業に賠償を命じた訴訟の原告の1人だ。
賠償を命じられた企業は、新日鉄住金(現・日本製鉄)と三菱重工だ。
日韓両政府が三菱重工など加害企業や日本政府の責任を棚上げしたまま、新たな団体をつくって賠償を肩代わりするやり方で逃げようとしているのに対し、梁さんはこう訴えた。
「望むことは日本からの謝罪。謝罪を受けることさえできれば、という思い一つでこれまで耐え、生きてきた」(16日付朝日新聞デジタル)
梁さんが持つプラカードには、「三菱 謝罪・賠償!」と書かれている(写真右の中央)。
三菱重工は「死の商人」であるだけでなく、植民地支配の「戦犯企業」でもある。
三菱重工に注がれる視線は、日本と韓国であまりにも対照的だ。
三菱重工に対する日本政府の支援・優遇、日本社会の甘い評価は、侵略戦争・植民地支配の加害の歴史に目を向けようとしないこの国の有様を象徴している。