アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

戦前・戦中の教訓「図書館の自由に関する宣言」が危ない

2022年10月31日 | 日本の政治・社会・経済と民主主義
   

 30日のNHKスペシャルは「岐路に立つ民主主義」と題してEU諸国の状況を報じましたが、「民主主義」が岐路に立っている、危機に瀕しているのはなによりもこの日本です。

 侵略戦争・植民地支配の教訓から、「知る権利」「表現の自由」の拠点とされてきた「図書館の自由」が岸田・自民党政権によって侵害されようとしています。

 文科省は8月30日、「北朝鮮当局による拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について」と題した「事務連絡」を各都道府県の教育委員会などに出しました。
 学校の図書館に「拉致問題」に関する図書を多くそろえるようにという事実上の通達です。内閣官房拉致問題対策本部の要請を受けたもので、「文科省が特定のテーマの本の充実を図書館に求めるのは異例」(9月21日付琉球新報=共同)です。

 全日本教職員組合(全教)は直ちに、「撤回を求める要請」(9月8日)を行い、「政府が図書館に対して、内容やテーマを指定して図書の充実や展示を求めたりすることは、子ども、国民の思想を縛るきわめて危険なことである」と指弾しました。

 日本図書館協会(公益社団法人)は今月11日、「「図書館の自由に関する宣言」の理念を脅かすものである」とする「意見表明」を行いました。

 「図書館の自由に関する宣言」は1954年に採択(1979年に改訂)されました。

 「宣言」は、「図書館が国民の知る自由を保障するのではなく、国民に対する「思想善導」の機関として、国民の知る自由を妨げる役割さえ果たした歴史的事実があることを忘れてはならない。図書館は、この反省の上に、国民の知る自由を守り、ひろげていく責任をはたすことが必要である」とする基本理念によって採択されたものです。

 その上で「宣言」は、「第1 図書館は資料収集の自由を有する」「第2 図書館は資料提供の自由を有する」「第3 図書館は利用者の秘密を守る」「第4 図書館はすべての検閲に反対する」という4項目にわたって詳述。「権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき…収集した資料と整備された施設を国民の利用に供する」と宣言しています。

 「宣言」は全国の図書館に掲示されているといいます(写真は朝日新聞デジタルより)。
 今回の岸田政権・文科省の通達が、この「宣言」を踏みにじるものであることは明白です。

 図書館協会の「意見表明」はさらにこう指摘しています。

「今回の文書は、今後、外部からの圧力を容認し、図書館での主体的な取り組みを難しくする流れとなる怖れがあります」「内閣官房からの文書が、そのまま文部科学省からの文書となることは、学校や図書館への指示や命令と受け取られることにもなり、国民の知る自由(知る権利)を保障するうえで、とても危険なことだと考えます」

 ことは「拉致問題」にとどまらず、また、図書館だけにもとどまらず、日本社会・市民の「知る自由」「知る権利」「表現の自由」全体の問題です。

 戦前・戦中の天皇制国家の「思想善導」に加担した苦渋の教訓から生まれた「図書館の自由に関する宣言」。それが、日米軍事同盟のかつてない深化、軍事費の大膨張の流れの中で侵害されようとしている。このことの歴史的意味を直視する必要があります。
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