ウクライナの隣国・スロバキアで9月30日、国民議会(一院制、定数150)の選挙があり、「スメル」(道標)が第1党に躍進しました。
「フィツォ元首相が率いるスメルは、紛争を長引かせるとしてウクライナへの武器や兵器の供与に反対。ロシアとの貿易が制限され、自国経済も打撃を受けているとしてロシアへの制裁にも反対している。ウクライナのNATO加盟も拒否する姿勢を示している。国民がインフレに苦しむなか、ウクライナよりも自国民を第一に守る姿勢を強調し、支持を集めた」(1日付朝日新聞デジタル)
ウクライナへの軍事支援に反対する理由について、同党のプラハ副党首は朝日新聞の取材に、「多くの若者が亡くなり、戦争を長引かせてたくない」「ロシアが悪、ウクライナが善だという米国のプロパガンダ(扇動)は支持しない」と述べています(9月16日付朝日新聞デジタル)
なんと明晰な主張でしょう。そのスメルを第1党に躍進させたスロバキア市民の選択はきわめて賢明だったと言えます。
フィツォ氏とロシアの長年の関係が背景にあり、今後の展開は連立政権の性格によって予断を許さないという面がありますが、政治的駆け引きの視点を超えて、市民の選択は正当に評価すべきではないでしょうか。
一方、米議会でもバイデン大統領が署名したつなぎ予算(9月30日成立)にウクライナ支援予算は盛り込まれませんでした。共和党の政治的思惑がありますが、米国内ではウクライナ支援よりも国内に予算を回すべきだという世論が強まっており、今回の結果はそうした世論と無関係ではないでしょう。
「自国ファースト」はトランプ前大統領と結びつけられて否定的イメージがありますが、他国への軍事支援より自国の市民生活を優先する(ファースト)のは当然のことです。
ところが日本のメディアは、スロバキアの選挙結果を「NATOのウクライナ支援の足並みが乱れる可能性がある」(1日のNHKニュース)、「NATOやEUの結束に打撃となる」(2日付共同)など、否定的に論評しています。きわめて偏向した報道と言わねばなりません。
スロバキアの事態は日本にとってけっして他人事ではありません。
岸田政権はウクライナ戦争をも口実に、来年度の軍事費を今年度より大幅に拡大し(17%増)、7兆7385億円を概算要求しています。そのしわ寄せは、医療費の自己負担増、福祉・介護職員の低賃金、相次ぐ値上げに対する無策、年金の目減りなど生活を直撃しています。
「兵器か生活か」。それは「戦争の継続・拡大か即時停戦・和平か」に直結します。その選択を今世界中が問われています。スロバキア市民は答えを出しました。日本市民も答えを出す必要があります。