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つれづれ

名古屋市内の画廊・佐橋美術店のブログ

今日の佐橋美術店

2023年10月06日 | 【版画】
昨日ふらっと店にお入りになってくださったお客様に、私が少しお声をおかけすると、この薫の柿をおほめくださいました。

「山口薫という画家をご存じですか?」とお聞きするとご存じないというお答え。

「絵はとてもよいけれど、僕は残念ながら柿が苦手で・・」

「なるほど、実際の柿がお苦手なのですね。それはこの絵を評価するのに重大な判断基準ですね(笑) 確かに薫の絵に林檎はあまり登場しません」

「柿がこの画家さんの色彩感覚にぴったりなのでしょうねぇ。絵の好みも流行もどんどん変わるけれど、結局このあたりの表現まで戻ってくるような気がしますねぇ」

「はい、本当にそう思います」

ほかにご来客がありこれ以上はお話させていただきくことはありませんでしたが、山口薫をご存じないだけで、絵画をずっとご覧になっていらしたのかしら?と思える方でいらっしゃいました。



加山の「月とサイ」はいつか求めたいと思っていました。

動物の中で一番といってよいほど私は犀のそのフォルムが好きです。

そして、幼いころ動物に凝り、犀に凝り、それから恐竜、鳥と、息子もその興味を広げていきました。






加山又造の才能とその作品の「クール、カッコイイの昇華」は誰もが認めるところですが、それと同時に加山作品の中に、“一抹の寂しさ”を感じるのも確かなことだと思っています。

一抹のさびしさ。

それは日本の伝統のなかに養われた、日本人の美意識にもつながる感情だと思いますが、版画とはいえ、この「月」と「犀」との取り合わせは加山にしてはわかりすぎるくらい大変ウェットで、作家の初期の心情をよくあらわしたものであるように思います。





私はいま特に、きわめて個人的な思い出に支えられて自分を保っています。


そして、その「個人的な事情、経験、思い出」にこそ、その方のコレクションの真髄が隠れているように感じられています。

柿が好き、嫌い。

犀が好き、月が好き、秋のこのさびしい感じが好き。



版画を選ぶときは、その作家がいかにその版画の制作に関わり、気を込めたかを感じること。それも佐橋から学んだことです。






もちろん、この作品をお気に召していただけるお客様がいらしゃいましたら、作品は喜んでお納めいたします。その時こそ、私の個人的な思い出や思いが、お客様のご経験や思いにつながり、そうして加山自身や私たちの生にまつわる一抹の寂しさは広い、自由な世界に解き放たれるのだと思っています。





加山又造 リトグラフ 「月とサイ」 1960年制作
加山又造全版画集 1955-2003 No.3 掲載 
イメージサイズ 28×35.5  
シートサイズ39.5×54.2㎝



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