つれづれ

名古屋市内の画廊・佐橋美術店のブログ

牛島憲之

2023年08月02日 | 牛島憲之
この2ヶ月、私は必死でこの店に通い続けました。

佐橋美術店の作品はどれも思い出深く、そして真っ直ぐに私を癒してくれました。

今、やむを得なく日本画を中心に作品を幾つか手放していますが、残している作品の中でも
断然1位に、私に力を与えてくれているのは、この牛島憲之の「初日」です。

苦しみや悲しみが、麻痺状態になっている時に

視線を変える事を促してくれる作品。

一緒に前に進もうと励ましてくれる作品。

主張は少なくてもただそこに居てくれる作品。

色々ある中で、牛島憲之の特にこの作品に感じる「品」は格別なものです。

品とは、徳という言葉に置き換えることも出来るかと思います。

徳と言っても決して大袈裟なものではありません。

「ある実感の共有」というものかと思います。






牛島の画集に「炎昼」という作品と作家自身の文章が掲載されていました。

炎昼は昭和21年、牛島46歳の作品です。

これより先、更に51年もの時間を長く生きるとはきっとご本人もこの時思っていらっしゃらなかったと思いますが
この頃確立された様式、或いは世界観は、きっと牛島本人さえも癒し、その生命を長らえさせたのではないか?とさえ思います。



前作「残夏」の炎天下の緑という構成は、自分でも気に入っていたので、引き続き描いたのがこの「炎昼」です。
これは糸瓜ではなくカボチャ、近所の友人の家の庭にあったものです。

何もかも死んだような真夏の昼、独り絵筆を動かしていると、気力が満ちてくるような気がしました。

私は8月生まれ、夏が好きなんです。

93歳の今日まで、夏が辛いと思ったことはありません。

そのお陰か、この年の第二回日展でこの絵が特選をいただきました。

以後の私のスタイルがこれで確立したと言って良いかもしれません。



夏を辛いと思ったことのない牛島が現在のこの気温をどう捉えるか?少し意地悪な興味を持ちますが

ただこの「炎昼」という作品を観る時、昭和21年と現在のその気温差を感じさせることのない
「暑さ」を感じることができるように思います。

それは、牛島が「炎昼」という言葉から想起させられるイメージの世界、
また人間にとっての「夏」「暑さ」の本質を絵画の中に大胆に、かつ大変丁寧に表現しているからだと感じます。


今のお若い方たちの感じる「暑さ」は、きっと日本が世界に誇るアニメの世界にもきちんと表現されるのでしょうけれど、
ただ時間を重ねて、経験をしてゆく「夏」への思いや「暑さ」への感触は、きっといつかこの牛島憲之の織りなす手触りの
静かな、深い優しさに溢れる「夏」のイメージに近づいていくような気がしています。



私は夏に生まれたので夏美という名前なのだとずっと思っていましたが、先日妹が父になんとなく聞いた気がすると言って

「夏の子供のように、裸で放っておいても元気に育つように」という意味もあったと教えてくれました。


だからって、60過ぎて丸裸にされて放っておかれてもね、、お父さん‼️雅彦さん‼️


「初日」

その言葉のイメージも、作品の内容も私に確かな「初めての力」を与えてくれていると実感しています。
丸裸だからこそ感じる静かな美しい力です。


やはり、牛島額より、この額の方が深みを感じる気がしますが、いかがでしょうか。












コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

奥村土牛の言葉

2023年05月21日 | 牛島憲之
佐橋も私も若い頃には、いろいろな画家さんのお宅にお使いに伺いました。

その当時、2人の勤めていた画廊は名古屋に本店、東京に支店を持っていましたので

都内、また鎌倉、大磯などに多く住んでいらした作家さんのお宅に「お使い」に伺う機会も多くあったというわけです。



お届け物をしたり、新しい作品を受け取りに伺ったり、、「画家ご本人のご性格と作品は別々の物」と考えた方が良いとは思いましたが、やはりこちらも人間ですので、先生方のお姿、来客に対するご対応などの印象は強く残り、今もついその感覚で作品を見てしまうということは多くあります。

残念ながら、私自身は牛島さん、奥村土牛さんにお会いしたことはありません。

ただ、奥村土牛さんのお書きになる文章は、大変素晴らしいと普段から思っていて、描かれる作品よりも
文章の方に、土牛さんの人としての深みを直接感じることができ、癒されます。







1979年冬の別冊アサヒグラフに次のような記事があります。
ご覧になりにくいと思いますので、少し抜粋させていただきます。

個性と信念の人 奥村土牛

それだけでなく、お人柄から申しましても、洋画畑の先生方には珍しく、この方がと思うくらいに静かな方でね。
人格者と申しますか、すべての態度や物腰が柔らかで自然なんです。それに謙遜家のうえに寡黙の方で、つまりは
芯の強い、個性と信念の人なのですね。

それが絵の上でもよく現れていると思います。例えば牛島さんの色彩ひとつにしてもです。ちょっと見た目には非常に
淡いようですが、よく見るとその淡さの中に、深みともうしますか、口ではいえない複雑な奥深さがどの作品にも
色濃く出ているのです。これだけはちょっと真似できません。それだけに制作なさる気構えと申しますか、ご苦労は
決して並たいていの物ではございませんでしょう。

風景や他の作品でもいえることですが、いったん、一つの対象を選ぶと後は他のことを考えず、そのもの
ひとすじにぶつかっていかれるという気迫が感じられましてね。私は、牛島さんの、そんな一途なところが好きなんです。
自分でもそうありたいと思っております。

洋画家では、いま一人、先日亡くなられた岡鹿之助さんの作品も好きでしてね。それがどう申しますか、このお二人の
作品からは、不思議に東洋的な感じを受けるのです。とにかく、このお二人だけは、洋画家の中で私の最も好きで
尊敬する画家なんです。

牛島さんは、岡さんと同じように、風景などを描かれるときは、現場ではデッサンだけで、画室にお帰りになってから
制作をなさるということです。・・・・そのようなお二人の手法にしても、私たち日本画家の制作過程と相通じる面が
あるわけですね。

それに、見ればすぐわかりますが、牛島さんの絵は一見リアルな感じですが、そこには随分深い味わいがあるということです。
これは、写生をしつくしたうえで、完成した形の中に、複雑な自然そのものの内側というようなものが表現されているのだと思います。非常に格調の高いものになっています。






苦労や悲しみ。
そんな簡単な言葉で処理されるものではなく、人はいつもその内に何か「うごめくもの」を内包しながら、それでも真っ直ぐに生きている。

牛島作品の表現の本当はそんなところにあるのではないか?と今の私は考えています。





そして、大変な手前味噌ですが、その牛島が「初日」とタイトルを付けたこの作品にも
牛島の晩年の本当は深く刻まれていると感じています。

今日、明日、お休みを頂戴いたします。

今週火曜日からは少し営業時間の変更をさせていただくことがございますので
ご来店の際には、ご予約かお電話を頂戴いたしたく存じます。

まことに勝手を申し上げますが、よろしくお願い申し上げます。






コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今日の牛島作品

2023年04月18日 | 牛島憲之
そろそろ皆様のお手元に展覧会のご案内状をお届けできた頃だと存じます。

本日、早速、牛島作品についてお問い合わせをいただきました。

ご覧になりにくく、申し訳ございませんが、表紙の牛島作品の価格は裏面に表示させていただきましたので
ご確認くださいますようお願い申し上げます。










牛島作品は額やスポットの当たり方で、随分色の印象が変わります。

こちらは先ほど、図書室の自然光のもとで撮影した画像です。






こちらが本物に近いのか?とお尋ねいただいても、またお返事が難しいのですが、
描かれている内容は一番わかりやすくご覧いただけるかと思います。


「綺麗な絵」という表現を使うことはとても難しいなぁ〜と、
このブログで長く絵について文章を書かせていただいてきて強く感じています。



佐橋美術店の私たちの思う、「綺麗な色」は少し「くすみがかっているかな?」と思ったりもするのですね。


ぜひ、展覧会で皆様のご感想をお聞きしたいと思います。
























コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

牛島憲之

2023年04月13日 | 牛島憲之
新しく入手いたしました牛島作品は、サムホールの小品、「初日」です。










詳細はわかりませんが、おそらく1970年代の制作作品かと思われます。

どのように撮影をしても、この作品の色彩の美しさをお伝えできませんので、入手後今まで
ご紹介をさせていただきませんでした。

25日からの当店の展覧会で、ぜひ皆様にごゆっくりご鑑賞いただければと思っております。



現在、ご覧いただいておりますのが、この作品の元々の額で裏に牛島の共シールが貼り込まれています。













お好みによって、新しい牛島額も用意させていただいております。

今のところ、私共は元々の古い額の方が良いように感じています。





牛島憲之 キャンバス 油彩  SM    「初日」  共シール 

キャンバス裏に画家サイン、タイトル有   













コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする