つれづれ

名古屋市内の画廊・佐橋美術店のブログ

くろぶなに山葡萄

2020年08月26日 | 金山平三

この「つれづれ」を長くご覧くださっているお客様から、先日夏のご挨拶をメールでいただきました。

奈良にお住まいのお客様ですが、名古屋の九平次さんのお酒をお飲みになる機会がお有りだったそうで

「名古屋のような都会に酒造メーカー?」と不思議に思われたようです。

「九平次って知ってる?」と私がひとこと言うだけで、佐橋が「あぁ、醸し人九平次ね」と直ぐに答えてくれてびっくり‼️

さすが、昔取った〜です。同じように名古屋市内にも以前はいくつかの酒蔵があったようですが、今は随分と減ってしまったようです。

また機会がございましたら、愛知や岐阜県内の老舗酒蔵のご紹介をさせていただきますね。


さて、このお客様からのメールには

あらためて、ブログでご紹介いただきたいのは、金山平三「くろぶなに山葡萄」です。不思議な絵です。」とありました。

ブログの記事にリクエスト?をいただくのは、初めてなのでとても嬉しく読ませていただきました。

お客様は軽いお気持ちでお書きくださったのでしょうけれど、、そして、各お客様は、勿論、半分冗談くらいのお気持ちで当店へのメールやお問い合わせをお書きくださればそれで良いのですが、、


私は昨年末に、この金山の「くろぶなに山葡萄」を倉庫にしまってから、ずっとこの作品のことを考えていましたのでドキッとして、夏休みの宿題をいただいた気持ちになったわけです。

そして、それを知ってか知らずか。。私が留守をしている間に、先週佐橋はこの作品をとうとうギャラリーに飾りました。



むむむ



書かざるを得ない。。作品の年代などは、昨年も書かせていただきましたのでそちらをご覧いただいて。。

今この作品を私がどう見ているかを書かせていただこうと思います。

まず



本当はこんなことをしてまでお話することではないのですが、思い切って

① くろぶなの木です。傾いて向こう側に向かって伸びています。

②多分この幾つかの緑の点が山ぶどうです。くろぶなに蔓が巻きついているようです。

③白く見えるところを遠くからご覧ください。川が流れています。

④奥に紅葉の木々が見えます。

⑤これはきっと植物で、誠に金山らしいタッチで描かれていますが、実際には何か?はわかりません。

けれど、この描写のおかげで川と紅葉の奥行きが分かります。トンネルの始まり!のように見えます。






いかがでしょうか?

先回、先先回と書のお話をさせていただいたのは、突然のことではありません。

この金山の作品を楽しむには、書を鑑賞するような眼でご覧いただかなくてはいけません。

その時に、最後に1番素晴らしい!と思えるのは、この小さく描かれた白いシャツの人物の立ち位置、

姿勢です。この人物に目をやると、動画のように風景画がぐるーと一回転でもしそうに感じます。そして人物の右側にオレンジの線で階段が続いているようにも見えてきます。


私達は毎日色々なことを感じながら、考えながら、飽きずに同じ作品を鑑賞しています。時には,

このような風景が実在しないかとネットで十和田湖の画像を探したりしながら。。です。



若き空海の書に感動したように、





この金山のサイン一つを見ても、金山がどんな作家であったか?は想像がつくように思えます。

佐橋はこの金山を「最高の金山に出会えた」と言って求めてきました。そして驚くことに、その時は上記のようにどこになにが描いてあるかは、はっきりとわからなかったようです。

「結局は日本の油絵画家は梅原も金山も宋元画の所までたどり着こうとしたんだ」といういつもの佐橋の一言に尽きるのだと思います。

「そんなこと、昭和の時代ではあるまいし、どなたがご理解くださり、感動してくださるのだろう?」と思いつつ
私は、どんどんそうした日本の油絵画家の描く世界に魅力を感じ、引き込まれていくのです。
そして、幸いにも若い頃銀座でみていた作品達のお値段が今は何十分の1にもなり、私達のような者でも、そうした作品を扱えるようになりました。


何が起こってもできるだけ長く、私達の良いと思う作品をずっと皆様にご紹介申し上げたい!今はそれだけを願っています。












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コメントをありがとうございます

2020年08月25日 | 日記・エッセイ・コラム
週初めにコメントをいただくと、何だかとても元気が出て参ります。
誠にありがとうございます。

先の書の記事についてもコメントをいただきました。

丁度店で、佐橋と空海の書を見ておりましたのでコメントとあわせ、ご紹介させていただきます。


「空海さん
空海の聾瞽指帰(ろうこしいき) の実物を見たときに、若干二十歳そこそこでこういった字を書いた人が過去にいたのかといたく感動した覚えがあります。空海は伝説が多い人ですが、あの書を見る限り伝説の一部は史実に基づくのであろうと。」




聾瞽指帰は空海の二十歳の頃の自筆本で、内容は儒教、道教、仏教の三教について3人の仮托人物に論ぜしめたもので、儒道仏三教の優劣を論じ、仏教の妙理を説いています。弘法大師が発心出家の意を親戚知己の間に表明したものといわれているそうです。





聾瞽指帰、巻頭と下巻の一部をご紹介いたします。




こちらは拡大判です。


若干20歳にしてこの文字。すでに日本に王羲之の書が伝えられていたのだと思えますね。

書は人と言いますが、60歳近くなる私が風信帖などこの空海の若い頃の書に感動し、臨書してみたいと思えてしまう。。

結局弘法大師とはそういう人、力、悟り、、であったように感じます。


さて、いよいよ夏休みの宿題を出してくださったお客様へのお返事、宿題の提出をさせていただかなくては
いけない8月の最終週を迎えました。

単にブログを書かせていただくことだけなのですが。。
なんとかうまく書けないものかと思案して、お時間をいただいてしまいました。

とにかく、数日かけて頑張ってみます




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書の見方

2020年08月23日 | 日記・エッセイ・コラム
このところ、自宅ではずっと書に関する本を開いています。

書を習い始めたからということもありますが、書を見る力はすなわち絵を見る力だということを
実感できているからだと思います。

書の練習をして、お清書をして、提出をする作品を決めるときは、必ず佐橋に見てもらうようにしています。

彼が出来の良い1番に選んでくれる作品は、決まってお稽古の際、先生が1番に選んでくださる作品と同じです。

佐橋は確かに長く書道を習いましたが、書を見る力はその時に養ったのでなく、きっと画商の仕事を通して養ったものだろうと
思えます。


私が書道を習おうと思ったのは、「書く」という行為そのものが好きだということも大きな理由ですが、
高村光太郎が「書がわかれば、芸術全般がわかるようになる」とその著書に書いていたからです。

上手い字を書こうなどとは思ったことはありません。
私の「書」を探したいと願うだけです。

そして、御舟も華岳も、梅原も安井も、藤田も国吉も、セザンヌもルノアールも
一生涯筆を持って、ひたすら絵を描くことだけに時間を費やしたのだな、この辛い孤独な道を黙々と歩んだのだなという
共感を得られることは私にとってとても大切なことだと思えます。







王羲之 蘭亭序


中国、唐朝の2代皇帝太宗は、その政治力でも歴史に名を残していますが、能筆家としても知られ、臣下にも初唐の楷書を完成させた書の大家を登用するなど、書に対する関心が強かったといわれています。
特に現代でも「書聖」として高く評価されている王羲之の真筆に対しては、異常なまでの執心ぶりを見せ、手を尽くしてその代表的な作品である「蘭亭序」の真筆を手に入れ、死後に自分の墓に納めさせたというお話があります。

この太宗の王羲之に対する執拗な関心は、「書聖」王羲之の名を更に不動なものにしたとも言えますし、またその真筆作品を後世に伝えるすべての道を閉ざしたとも言えるのだと思います。



王羲之の書は、こうした伝説も含み、空海をはじめとする日本の書家にも多大なる影響を与えてきました。




本阿弥光悦 赤壁賦巻

美しいと感じる心、その美しさを一人占めしたいと願う欲望、権力、資力、、
いつの世の中にも美術品は私たち人間の孤独の心を救い、また狂わせ、見事に生き延びてきました。

この感染問題を超えて、きっと私たちの美意識にも少し変化が生まれるだろうと思っています。

「時間」を埋めるだけであった現代アートと言われる美術品は、きっと少しベクトルを変え、
「個々の孤独」を埋める本来の芸術作品の使命を取り戻すのではないかと考えています。

そして、その取り戻す作業の基本、指針となるのが過去の美術作品たちであることに間違いはないだろうと思います。
おうちにいる今のうちに、、歴史に学び、美しい古典に学んでおきたいと思います。







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朝顔

2020年08月18日 | 日記・エッセイ・コラム
昨日ご来店くださったお客様と朝顔について少しお話をさせていただきました。

朝顔といえば、切手にもなった琳派、鈴木其一の朝顔図屏風だろう!とか、

京都画壇ではどうだろう?土田麦僊とか福田平八郎の朝顔は?など楽しいお話になりました。



上の画像は、大分県立美術館さんの平八郎の朝顔です。この作品も六曲一双の屏風ですので、
先回の絵葉書の作品達と比べることはできまませんが、この構図、とても平八郎らしく
感動いたしますね。

朝顔は、遣唐使が持ち帰ったお花だそうですが、日本人には大変馴染みの深い、またとても日本らしいお花だと感じられ
また来年も皆さまと朝顔の絵についてお話出来たら良いなぁと思っています。
自粛生活を始めて、「来年も」と思えたのははじめてのような気がします。

それは、とても良い事だと思えます。





大分県立美術館さんは、ご所蔵の作品の検索システムが大変充実していて
特に大分出身の平八郎の作品が沢山楽しめます。よろしかったらご覧ください。









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朝顔三題!

2020年08月14日 | 絵葉書
何度でも、残暑お見舞い申し上げます。

名古屋も猛暑続きの毎日です。
お墓参りにお寺に伺うだけで、もう汗びっしょり💦命がけ💦

こんな時にきちんとお墓参りに出かける私達って偉い!と内心思っておりますと、
皆さん、このお暑さの中、きちんといらしているのですね。。
爽やかに「こんにちは〜」などと言い合いながらのお墓参り、、
日本人ってやはり立派だなぁとつくづく感じます。

さて、お客様より絵葉書を頂戴いたしました。
沢山の絵葉書をお集めのお客様。
今回は「朝顔三題」とタイトルをつけさせていただきました!

ご覧になりにくいかもしれませんが、松尾敏男、安田靫彦、杉山寧の朝顔。
どれがどの画家の作品か?お分かりになられますでしょうか?






1番上、緑のバッグが松尾敏男
その真下が杉山寧
その隣、地面に広がって描かれているのが安田靫彦です。

参考に図録も出してみました。1番下は小林古径の作品です。

同じ日本画ながら、朝顔の美しさをどこに感じるか?で、作品のイメージが随分と
違ってくるのだと思います。

「お好み」を1番にお選びいただくのが大切かと存じますが、、


皆様が「朝顔」らしいとお感じになられるのは、やはり杉山かな?と思います。
構図にも色にも隙がありません。





朝顔を描くには「線を引く力」が1番大切だと思いますが、杉山のこの線の技術に
申し分はありません。






「牡丹の松尾」の「朝顔」は鈍い緑色をバッグに使って、全体に鈍く描かれている印象を与えます。
朝顔の描写はやはり「線」の勝負になりますので、それを上手く避けているようにも見えますね。
牡丹なら目を瞑っても描けてしまうだろうこの画家の朝顔には、何か初々しさも感じられ、額に収めた時、
案外華やかになって良いのかもしれないと思えます。





靫彦の朝顔は、本当に綺麗ですね。
とりどりの色のお花が咲いています。
夏の植物の葉のこんもりとした様子、伸びようとする蔓の描写、意図的に隙を作り
朝顔の持つ、やさしさ、素直さ、明るさを上品に描いています。

何を描こうとしたのか?が随分と違い、この三枚の朝顔と古径のこの図録の朝顔を比べるのは
少し無理があるようにも感じますが、、無理やり比べてみますと。。

隣に描かれた「からすうり」と同じように、「蔓」を描かせたらやはり古径は1番!だと思えます。


杉山も靫彦も勿論「蔓」を大変巧みに描いています。そして、それぞれ「杉山の線」「靫彦の線」に「揺るぎ」など
全くありませんが、、、

それは全て画家自身の身の内、内部に伸びている「蔓」であるように私には感じられてしまいます。

古径の描く蔓は、何の支えなく、頼りなく、けれど必ず自身を脱して、太陽に向かい成長を続ける。

「朝顔の命の再現」そういった感動を与えてくれるのです。

その絵を見て「誰々の作品」「誰々の線、色」とわかる事。
画家にとって長い画業を通して獲得していく時、1番大切なことはそこにあると思いますが
まだその先に、無私の世界があるように古径の作品はいつも感じさせてくれるのですね。


ここにはご覧にいれませんでしが、土牛の朝顔もまたその境地が感じられ、私は好きです。
土牛の朝顔には「夏」があります。

日本人が、お墓参りに行くことも、お料理をすることも、お掃除をすることも、勿論お仕事をすることも、
実はこの境地を味わう為だろうと私はこの頃つくづくと感じます。そして、そうした暮らしの繰り返しの中で
どんどんと「絵が見えてくる」という実感を深めています。










小杉放庵のお軸にお納めのお約束を頂戴いたしました。
まことにありがとう存じます。












コメント (2)
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