あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

維新運動とは何か

2018年01月17日 18時49分08秒 | 國家改造・昭和維新運動

彼等の心中には革命という意識は毛頭なかった。
彼等はその行動を 『 維新 』 と称し、
それは 天皇の大御心に副ったものであると信じていた。
我国には革命ということは絶対にあり得ないことであり、
若し有るとすれば、肇國の精神に則り、天皇によってのみ行われるものであると信じていた。
彼等にとって天皇は神聖であり、絶対であり、神であった。
そして己れの立場は、天皇親率の軍隊の一員であり、
天皇の意思を忖度そんたくして部下に号令する指揮官としての使命観に燃えていた。
然るに 現下の社会情勢を眺めるとき、この神聖なるべき天皇の大御心が、
君側にある 元老、重臣、政党、財閥、軍閥、官僚の一部佞臣ねいしんによって歪められているばかりでなく、
天皇を擁し、若しくは 天皇の御名を藉りて天下に号令し、私利私慾を恣ほしいままにしているかの如くである。
純真な青年将校たちは、この大権を壟断ろうだんしたり、私議する徒輩こそ君側の奸であり、
これを芟除せんじょすることによって我国本然の天皇親政の姿に立ち還ると信じた。
この考えが君側の奸を斃すという非常手段の発想となり、これこそが国体を危殆きたいから救う唯一の道であり、
これを決行する事こそが青年将校に課せられた使命であると思い込んだ。
そして、この考えが強くなればなるほど 君側の奸に対する憎悪の念が激しくなっていった。
次に彼等の考えていた維新実現の順序は、
先ず 憂国の青年将校が、天皇の大御心を心として尖兵となって口火を切り、
次いで本隊である軍当局がこれを是認し、行動に参加することによって軍が維新に入り、
そして国民が賛同すれば、国民が維新に加わる。
そこで大号令が発せられ、初めて本当の維新がその緒につくというものであった。

だが、予想に反し、
大御心に副うことが出来なかったことに気付いた。
最後の極点に立って自己の信念を再検討してみた揚句、
残された道は唯一つ、自決しかなかったのではなかろうか。
この点、平戦両時を通じて天皇に対するお詫びは是にあるのみと云っていたことに合致する。
従って彼等は最後迄自分達の行動は正しいものと信じ、
これを弾圧するものは君側の奸の陰謀であって、
決して大御心の真意ではないと思い込んでいたものと思う。
銃殺刑に処せられたにも拘らず、その最後に臨んでも尚、
「 天皇陛下万歳 」 を叫んだということから推してもはっきりしている。
彼等は後続部隊のあるを信じ 蹶起したのであったが、遂に逆賊の汚名を着て殺されてしまった。


青柳利之 遺著 
首相官邸の血しぶき 
から


西田税、安藤輝三 ・ 二月二十日の會見 『 貴方ヲ殺シテデモ前進スル 』

2018年01月17日 05時34分43秒 | 前夜

二十二日の早朝、
再び安藤を訪ねて決心を促したら、
磯部安心して呉れ、
俺はヤル、
ほんとに安心して呉れ

と 例の如くに簡単に返事をして呉れた。
・・・磯部淺一  行動記 第十 「 戒厳令を布いて斬るのだなあ 」 


西田税               安藤輝三


安藤大尉ハ二月二十日頃ノ夜私方ニ來マシタノデ、
私ハ
「 實ハ君ニ聞キタイ事ガアツテ來テ貰ツタノダ 」
ト申シマシタ処、安藤モ
「 私モ貴方ニ會ツテ、意見ヲ聞イテ見タイト思ツテ居タ処デアツタ 」
ト言ヒマシタ。
私ハ安藤ニ栗原トノ会見顚末ヲ話シタ上、
「 自分ハ反對ダガ、君ハ何ウ思フカ。重大ダカラ、御互ニ腹ノ底ヲ打明ケテ、忌憚ナキ意見ヲ交換シヤウ 」
ト申シテ話ヲ始メマスト、安藤ハ先ヅ
「 貴方ガヤツテ居ル、海員、農民、労働、大衆、郷軍各方面ノ民間運動ハ何ウナツテ居リマスカ 」
ト質問シマスカラ、私ハ
「 僕ノヤツテ來タ運動方針ノ民間運動ハ順調ニ運ビ、漸ク其ノ緒ニツイタ処ダ 」
ト答ヘマスト、安藤ハ
「 最近若イ者ガ甚ダシク激化シ、蹶起スルト騒イデ居リ、
 自分ヲ大物ト見テカ一緒ニ立ツテクレト頻リニ催促シテ來ル。
自分トシテハ参加スルニ出來ナイ事ハナイガ、唯夫レガ善イ事カ惡イ事カニ附キ判断ガ定マラズ、
神経衰弱ニナル程考ヘニ考抜イタ結果、此間一応参加ヲ斷ツタ。・・・竜土軒の激論
夫レヲ、当時週番司令ヲシテ居タ先輩ノ野中大尉ニ其ノ旨ヲ話シタ処、
野中大尉ヨリ
「 今起タナケレバ、天誅ハ却テ我々ノ頭上ニ下ル。何故貴様ハ斷ツタカ。
 今俺ガ週番ダカラ、此機会ニ今週中ニヤラウデハナイカ 」
ト甚イ勢デ怒ラレ、自分ハ恥カシイ思ヒマシタ。
此様ナ空気デ、下士官 兵ナドモ相当強ガリヲ言ツテ居リ、到底此儘デハ済マヌト思フ。
實ハ、自分ハ最近若イ者ヲ聯レテ、
聯隊ノ先輩デアル山下少将ノ処ヘ行ツテ話ヲシテ貰ツタガ、却テ刺激サレテ帰リ、
或少尉ノ如キハ、其ノ晩速非常呼集デ警視庁襲撃ノ豫行演習ヲシタ様ナ始末デアリ、・・・昭和維新・常盤稔少尉
自分トシテハ本心ニ副ハヌケレドモ、
参加セネバナラヌ絶体絶命ノ立場ニ置カレテ居ルノデハナテカト思ツテ居ル。
又、今迄ナラバ
誰カガ貴方ニ告ゲルカ、貴方が嗅付ケルト抑附ケテ來タガ、
今度コソハ、何ウシテモ抑ヘガ利カヌ程度迄進ムデ居ル様デアル。
若シ貴方ガ今迄ノ様ニ考ヘテ抑附ケテ゛モスレバ、却テ大変ナ事ニナリ、
誠ニ申難イ話デハアルガ、貴方ヲ殺シテデモ前進スル様ナ事ニナルカモ知レヌト思フ。
私ハ貴方ニ此事ヲ告ゲタリ、又貴方ノ意見ヲ聞ク爲ニ一度會ヒタイト思ツテ居タ 」
ト云フ趣旨ノ事ヲ、シンミリト落着イテ話シマシタ。
私ハ野中大尉ハ知リマセヌガ、聯隊ニハ飛ムデモナイ急進分子ガ居ルナト思ヒマシタ。
安藤ノ話ヲ聞イテ居ル間ニ、
今迄頼リニシテ居タ安藤が大体決心シテ居ル様デアリ、
少ナクトモ同意セネバナラヌ立場ニ置カレテ居ル様デアル事ヲ知リ、
斯クテハ、我々一人二人ノ力デハ到底抑へ切レナイ所迄情勢ガ進ムデ居ルト思ヒマシタノデ、
安藤ニ對シ
「 君モヨク知ツテ居ル通リ、理論方針トシテハ直接行動ニハ絶對ニ反對ダ。
 若シ諸君ガ蹶起スレバ、常カラ一味ト見ラレテ居ル位ダカラ、事實関係ノ有無ニ拘ラス唯デハ済マヌ。
當局及世間ハ或程度ノ責任ヲ自分ニ冠ラセルガ、之ハ已ムヲ得ナイトシテモ、
サウナルト今迄孜々ししトシテ力ヲ濺イデ來タ自分ノ運動方針ハ、根底カラ打壊サレ、撲滅シテ了フ。
自分ハ抑ヘテ殺サレル事ハ厭ハナイガ、事態ガ其処迄進ムデ居レバ、結局ハ抑ヘテモ駄目ダラウ。
蹶起ノ主タル原因ハ、渡満ヲ動機トシテ国体明徴ノ様ニ聞イテ居ルガ、
満洲ニハ匪賊跳梁シ、ロシアハ共産主義国ニシテ北支亦悪化シ、今や満洲ハ實ニ重大ニシテ危険性ヲ増シ、
日露関係愈々切迫セル此際、渡満シテ彼地ニ骨ヲ埋ムルハ軍人ノ本望ナルベキモ、
海軍ノ藤井少佐ガ上海出征前後ノ心情ヲヨク知ツテ居ル自分トシテハ、
諸君ト主義方針ハ異ナルモ、
事ノ善悪ハ別トシテ、諸君ガ今蹶起セムトスル気持ハ、十分ニ諒解スル事ガ出來ル。
自分ハ、諸君ニ思止ツテ貰ヒタイトハ思フケレドモ、
此情勢デハ抑ヘテ抑ヘラレヌカトモ思フカラ、モウ抑ヘハシナイ。
君ハ国家ノ爲ニナルカ否カ、善イカ惡イカト云フ點ヲヨク考ヘ、最善ノ途ヲ選ムデ貰ヒタイ。
諸君ガヨク考ヘタ末ヤルトナレバ、自分ハ自分個人ヲ犠牲トスルヨリ外ナイノデ、運ヲ天ニ任セル。
兎ニ角、更ニモ一度考直シテクレ 」
ト云フ趣旨ノ事ヲ申シマシタ処、
安藤ハ、
「 ヨク判リマシタ 」
ト言ツテ歸ツテ行キマシタ。

安藤ト会見シタル結果、
抑止不可能ノ情勢ニ在ル事ヲ確信シタカ。

左様デアリマス。
安藤ハ栗原ト余程違フ所ガアリマスノデ、
安藤ニハ大ナル期待ヲ掛ケテ居タダケニ、
其ノ話ヲ聞イタ結果ハ、
モウ抑ヘルニ抑ヘラレヌ情勢ニナツテ居リ、之ハ駄目ダト感ジマシタ。

斯カル情勢ノ下ニ於テ、安藤が被告人ノ意見ヲ聞キタイト思ツテ居タト云フノハ、
参加シテ蹶起スルノガ善イカ惡イカノ判断ニ迷ツテ居タノデ、
其ノ決心ヲ附ケル爲ニ來タノデナイカ。
安藤トシテハ、
周囲ノ空気ガ険悪ニナツタガ、
或ハ同志ヲ裏切ツテ何トカスル方法モアルガ、夫レハ従来ノ關係カラ出來ナイノデ、
愈々絶体絶命ノ立場ニ置カレ迷ツタ爲、
決心ヲ附ケルベク考ヘテ來タカモ知レヌト思ヒマスガ、
又、私ガ力ヲ入レテ居ル民間運動ノ方ガ何ウナツテ居ルカ、
其ノ状況ヲ聞キ度カツタモノト思ヒマシタ。

安藤ニ考直シテクレト言ツタトノ事ダガ、
安藤トシテハ既ニ考直ス餘地ハナカツタノデナイカ
私ハ安藤ニ、更にモ一度考直シテクレト申シマシタガ、
肚ノ中デハ、安藤ハ最早考ヘル餘裕ハナカラウト思ヒ、同人ニ期待ヲ掛ケズ、諦メテ了ヒマシタ。

・・・第二回公判 から
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
リンク
・ 
西田税 「 今迄はとめてきたけれど、今度はとめられない。 黙認する 」 
・ 西田税 「 私は諸君と今迄の関係上自己一身の事は捨てます 」