日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

金閣寺 三島由紀夫

2009-10-26 | book

昭和25年(1950年)、金閣寺の見習い僧侶によって炎上した実際の事件をもとに
三島由紀夫は主人公・溝口が「私」という一人称で独白するかたちで小説にした。
主人公が見る金閣寺の心象風景は抒情に満ち官能的で美しい。この格調高い文体が三島の31歳の時に
書かれたことに感嘆する。 

 

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父から金閣ほど美しいものはこの世にないと聞かされてきた主人公は
吃音(きつおん)の障害があるため外界との接触が少なく、自己の中で成長する。
そして自分とを隔てる美の象徴として彼の目は金閣寺のみにそそがれてゆく。
やがて金閣は自分自身となり、醜い自分が焼き滅ぼされる時は金閣も焼失する、という考えに至る。
屈折した感情が、自分の運命を金閣と同一にするという狂気を生んだ理論ともいえる。

少年時代に自分を裏切った有為子と母の暗い過去。
そして内翻足の友人・柏木もまた現実を荒々しくかげろうのように生きている男だった。
金閣寺の住職を約束されながらも序々に深まる老師との溝。

こうした暗さと、鬱々とした気持ちが混濁した人生の中で生まれた呪いは、世間から遮断されている自分を
解放することだった。
金閣に火を放ったあと、彼はゆっくり煙草をくゆらせ「生きよう」と思う。                                         

 


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