年々にわが悲しみは深くして
いよよ華やぐいのちなりけり かの子
歌人・作家でもあった岡本かの子の生涯は、芸術と自分のいのちとの戦いであった。
純粋で童女のようなかの子は絶望的ともいえる葛藤を常に抱えていた。
それは純粋さを貫き通したゆえの宿命ともいえるかも知れない。
文学座公演 「エゲリア」とは、ローマ神話の泉の精の名前で、
かの子が生前 「湧き出る泉のように男たちへ永遠に智を与えるエゲリアになる」 と言った言葉から
このタイトルになったという。
舞台はかの子亡きあとの夫・一平と、息子・太郎の会話があり回想シーンではじまる。
岡本一平は当時誰もが知る漫画家であり放蕩にふける毎日が続いていた。
ふたりの結婚はすでに破綻寸前であった。
その苦悩からかの子は精神に障害をきたし入院する。
自分の愚かさを悔いた一平はそれからかの子のために生きていく。
一平はかの子を深く愛したが、一般の夫婦とは異なる関係であった。
芸術を理解し、彼女の愛人をも同居させる不思議な家族構成が存在することになった。
しかしその不思議さは危険とすれすれの上で成り立っているともいえる。
かの子の激しさは時に修羅場を生み悲劇を呼ぶ。
その激しさの裏には脆くこわれるガラスのような心に泣いている岡本かの子自身の姿があった。
エゲリアのように処女性と母性とを併せ持つかの子のガラスから響く
涙の音色を聞いた慈愛に満ちた男たち。
一途に生きたかの子の受難はまた清らかないのちそのものであった。
作 瀬戸口 郁
演出 西川 信廣
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