日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

夜間飛行 サン・テグジュペリ

2013-03-10 | book

Vol_de_nuit 
夜間飛行

郵便飛行がまだ黎明期であった頃。
南米のブエノスアイレスからパタゴニア、チリー、パラグアイに
郵便物を空輸するパイロットと、この物語の主人公で、航空会社の支配人リヴィエールの
過酷でありながらも任務を遂行する精神を描いた一夜の物語。

夜間のフライトは命がけである。
悪天候になると、山が波のようにうねり、風は大空を台無しに、
そして霧は方向を狂わせる魔物となって操縦士に襲いかかる。
空中での緊張感、孤独、疲労困憊。


支配人のリヴィエールはそんな彼らを愛しながらも自らを律し、
冷徹に厳格に離発着の完璧と操縦士のありかたを彼の信念によって徹底させる。

   自分は何者の名において、彼らをその個人的な幸福から奪い取ってきたのか?

リヴィエールは市民的幸福をふっと考える。
しかし優しさによって永遠なるものを途切れさせるわけにはいかない。
何事にもたじろがない精神を保ちながらも、リヴィエール自身もまた孤独であった。


パタゴニア線の操縦士ファビアンは闇の中で逆巻く暴風と戦っていた。
上下する機体、感覚のなくなった手で握る操縦桿。届かない無線。
その気流を突破しようとするが闇と風は容赦なく彼を襲う。
そしてとうとう見えた光。それは満天にかがやく星。
それが罠であることを知りつつファビアンは上昇する。
帰ることの出来ない静かなそのきらめきへ向かって。

そして応答のないファビアンを案じ、苦悩するリヴィエールであったが絶望の中であっても
前進する足を止める訳にはいかない。次の飛行を続行する。永遠をつくるために。



南方郵便機

『夜間飛行』と一緒に収められているこの小説は、主人公のジャック・ベルニスの友人が語るという物語で
サン・テグジュペリ自身の体験が色濃く投影された処女作品。

アフリカ・サハラ砂漠の奥地カップ・ジュビーからフランスへ郵便飛行するベルニスは
自分の幸福をさまようように探し求める。
航空士として空で飛ぶ満足をおぼえながらも、幸福の泉としてジュヌヴィエーヴを愛する。
空の幸福と地の幸福。
自分を理解しない夫を持つ彼女もまたベルニスを愛する。
もう一度会いたい気持ちでジュヌビエールを訪ねるが
彼女は細い息の中で別の世界へ行こうとしていた。地の幸福がベルニスを引き裂く。

そしてジュピーからの飛行。
砂漠の砂は風に巻かれ、太陽の熱は空気を澱ませる。
カサブランカとダカール中間のサハラ砂漠に飛行機のトラブルで不時着したベルニスは
救出されたフランス軍小屯地で老軍曹と出会う。
その後飛び立ったベルニスは消息を絶った。

ラスト、物語を語った友人は砂漠でベルニスに呼びかける。

    君が尋ねていたあの埋もれた宝物は、あれほど君が憧れていたあの宝物は、
    ここにあったのか!
    君はいやが上にも身軽になった。気ままに飛び去る魂よ!

そして無線からの通信。
「郵便物は無事、直ちにダカールへ向け空輸せり」

新潮文庫 訳 堀口大學
表紙のカット 宮崎駿


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