ドナ・ジョー・ナポリ、『野獣の薔薇園』

 『野獣の薔薇園』、ドナ・ジョー・ナポリを読みました。

 『美女と野獣』の野獣側に視点が置かれた、新解釈の物語です。ペルシャの王子がライオンの姿そのものに変えられてしまうという設定が、とても秀逸であると感じました。
 物語の前半は、ペルシャの王国の様子があれこれと華やかに描かれ、人々の習慣や王族の暮らし、風習についての記述など、珍しい話が盛り込まれていてとても興味深く読みました。そしてそこに登場するのが、薔薇をこよなく愛する心優しき王子オラスミンです。両親からの愛情を存分に受け、王子としての矜持にあふれる真っ直ぐな若者なのですが、ちょっとやっぱり、まだまだ未熟者かな…という印象も抜きがたいです。まだ、何かが足りない感じ。例えば彼は、結婚や女性の愛については、いつか王である父親が与えてくれるものとしか、考えていない節があります。 
 ですから、姿を変えられた王子が、呪いを解いてくれる女性と出会う為に長い旅をしなければならないのは、傍から見ていると修行みたいです。誰かの力を必要とすること、誰かの存在を大切に思うことを学ぶためには、まずは孤独を知らなければならなかったのでしょう。わざわざ(?)ライオンになって…というところが、かなり過酷ですが。

 私は幼い頃から『美女と野獣』の話がとても好きで、当時まだあまり知られていなかったこの話の絵本を持っていました(野獣はゴリラの顔でした)。その後、ジャンコクトーの映画を観てすごく気に入ったのですが、その映画『美女と野獣』の野獣がとても素敵だったので、「普通の人間の男に戻るより野獣のままの方がずっと格好良いのに!」と思ったことに、今の自分に通ずるものを感じますねぇ。
 でも実際、このお話の魅力はそこにあると思うのですよ。 
 特にこの作品では、王子が姿を変えられるのはライオンそのものなので、美女と野獣の組み合わせがより一層幻想的で、とても美しかったです。そして二人が遠回りをしながらも歩み寄っていく過程が、可愛くて切なくて本当に素敵でした。
 元の話がわかっているのに、ちゃんと先が気になる展開になっているところが凄いです。
 (2007.7.24)

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