服部まゆみさん、『時のかたち』

 『時のかたち』、服部まゆみを読みました。

 初期の短篇集である。収められた作品は、「『怪奇クラブの殺人』」「葡萄酒の色」「時のかたち」「桜」「服部まゆみノート」。服部作品の魅力と言えば、うっとり濃度の高さ。視覚的で耽美で、いつも酩酊させられる。とても美しいけれども翳りを含んだ一幅の絵画が、目の前に浮かび上がってくる…そんな素敵な作風なのだ。服部さんは画家でもいらっしゃるので、それもそのはず(表紙の装画はご自身の作品でした)。
 かの澁澤龍彦を髣髴とさせる人物が出てくる「『怪奇クラブの殺人』」は、幻想文学好きな作者の悪戯っぽい笑みが見えてきそうな一篇。「葡萄酒の色」や「桜」は、描写される情景や、話の中心となる女性の繊細な美しさが切なくて、余韻も格別な二篇。 
 そして何と言っても、表題作は素晴らしかった。トリックがあって、でもそれもあざとくはなくて。蛾を採集してコレクションしている人物が出てくるのだが、そのイメージの使い方も巧妙だった。蛾の妖しい美しさにとり憑かれた人と、醜さを嫌悪する人…。作品全体を蔽う鱗粉の、妖しく不吉な煌きが忘れられない。

 最後の「服部まゆみノート」には、服部さんのエッセイやインタビューが入っていて、これもすごく嬉しかった。服部さんのエッセイを読むのは初めてだったし、インタビューは短いけれども、北村薫さんや若竹七海さん…たちが聴き手で、とても満足な内容だった。

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