パピとママ映画のblog

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パワー・オブ・ザ・ドッグ★★★★

2022年06月01日 | アクション映画ーハ行

              

「ピアノ・レッスン」で女性監督として初のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したニュージーランド出身の名匠ジェーン・カンピオンが、ベネディクト・カンバーバッチを主演に迎え、1920年代のアメリカ・モンタナ州を舞台に、無慈悲な牧場主と彼を取り巻く人々との緊迫した関係を描いた人間ドラマ。

大牧場主のフィル・バーバンクと弟ジョージの兄弟は、地元の未亡人ローズとその息子ピーターと出会う。ジョージはローズの心を慰め、やがて彼女と結婚して家に迎え入れることになる。そのことをよく思わないフィルは、2人に対して残酷で執拗な攻撃を仕かけていく。しかし、とある事件をきっかけに、残忍な性格のフィルの中にも、人を愛することへの可能性が芽生えていく。フィル役をカンバーバッチが演じ、ローズ役で「メランコリア」「The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ」のキルステン・ダンスト、ジョージ役で「アイリッシュマン」「もう終わりにしよう。」のジェシー・プレモンスが共演。2021年・第78回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞。Netflixで2021年12月1日から配信。

<感想>ジェーン・カンピオン監督が描く、人間の抑圧された男性の秘めたる情熱。始まるとすぐにジョニー・グリーンウッドの音楽に惹きつけられる。少し不安を掻き立てられるが、妙に魅惑的な曲になっている。荒々しさと優雅さの合体。やがてそれは主人公の役柄そのものだと分かる。

舞台は1920年代のアメリカ・モンタナ州で、主人公のベネディクト・カンバーバッチが演じる、牧場主フィル・バーバンクは裕福な牧場のカリスマ的カウボーイとして君臨。大学卒のインテリで、古典や外国語の素養がありギターの名手でもある。生活態度は粗野で性格も悪い。弟のジョージは逆に勉強は出来なかったが温厚な性格で優しい。その弟が未亡人のローズに恋をし、結婚するという。そのことで、兄のフィルが異常なまでに激怒する。

それは、ローズにはピーターという息子がいて、医者を目指す大学生。趣味は造花を作ったり給仕をする繊細な青年だが、フィルにはそれが我慢ならないのだ。ピーターが登場すると、主人公の以外な面が見え隠れする。男らしさにこだわる彼にとって、ピーターは「女々しいやつ」なのだ。

映画の前半では、フィルはローズとピーターに執拗に嫌がらせをする。特にローズは夫に頼まれたピアノ演奏で、フィルに追い詰められていく。兄のフィルの悪魔的な性格が不穏な空気を醸し出している。フィルは、ローズに対していじめとも言える行動を取り続けるのだ。その辛さに耐えられず、ローズは酒に溺れるようになり、ある時からフィルがなぜかローズの息子ピーターの面倒を進んで見るようになると、彼の真意はどこにあるのかと、母である彼女の不安はますます強まる。

ところが後半になると、その雰囲気ががらりと変わり、ピーターがフィルに接近していき、二人の間に父親と息子のような関係が生まれるのだ。フィルにはかつて、ブロンコ・ヘンリーというカウボーイの師匠がいたが、(フィルは彼に同性愛的な感情を抱いていたが、そのことを認めたくないがためにマチズモ信奉者になったと思われる)

ヘンリーの弟子になった時のフィルが、今のピーターの年頃だということから、フィルは今度は自分がヘンリーになってピーターを指導しようと思ったのだろう。父親のいないピーターに男らしさを教えようとしたに違いない。フィルは牧場から見える山々に、犬の姿を見ていたが、ピーターも山の形が犬に見えると分かり、ますますフィルはピーターに親しみを持つようになる。

しかし、この2人の父と息子のような関係で映画は、終わるはずがないと思っていると、ぞっとするような結末が来るのだった。ジェーン・カンピオン監督の脚色は、ピーターの存在を大きくしているところに特徴がある。だから、映画はピーター中心で始まり、ピーターで終わる。最初と最後にピーターを出すことで、彼が見た物語に変化しているのだ。

そして、フィルとピーターの父親と息子ような関係の描写が続くのだが、ピーターの母親ローズへの想いがマザコン的な愛にみえた。フィルの弟ジョージに対する抑圧された愛、フィルの青年のころのヘンリーに対する抑圧された同性愛。カンピオン監督は、ここでは抑圧された男性の秘めたる情熱を描いているようだ。

原作はアメリカの作家、トーマス・サヴェージの67年の小説。不穏な空気が漂い、オチも衝撃的なのだが、映画も緊張感が途切れない。「ブロークバック・マウンテン」を思わせる内容で、主人公の内なるマチズモが崩壊する過程が詩的な映像で見せつけるのだ。

主演のベネディクト・カンバーバッチの孤独さや繊細さ、そして圧倒的な存在感に魅了される。母子役のキルステン・ダンストと、息子ピーターのコディ・スミット・マクフィーの華奢で蒼白な顔いろと無表情さが印象的でした。

ローズのキルステン・ダンストと弟ジョージ役のジェシー・プレモンスとは、私生活でもカップルであるというので、意気がピッタリで自然な演技でしたね。

 

 

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