ぶらぶら人生

心の呟き

池田一憲展 (石正美術館)

2008-08-08 | 身辺雑記

 一昨日は、かかり付けのT 医院で、定期の診察を受けた。
 ここ一二年、足の血流が悪くなっているのではと、多少気になっている。
 先日、草花舎で、Y さんと健康のことを話題にしていたとき、T 医院で、動脈硬化の簡単な検査はしてもらえると聞いた。
 そこで、その日、先生に相談した。検査してみましょう、ということになった。
 
 初めて受ける検査だった。心電図検査に似て、実に簡単なものだった。
 <血圧脈波検査>というらしい。検査後、「解析結果」表に基づいて、先生の説明を受けた。多少数値は高いけれど、早々に精密検査の必要はないと思う、とのことだった。
 が、帰宅後、私の目で、「解析結果」をみると、[右足][左足]とも、同年齢健常者の平均レベルをかなり超えており、太字で<動脈硬化が疑われます>と記してあるのだ。
 それでも、大丈夫なのだろうか。
 先生は、足の不具合は、脊椎からくる神経性の場合もあるので、もう少し様子をみましょう、とおっしゃったのだが……。

 
 診察を受けた後、街に出た。
 昼食をとり、スーパーで買い物の後、帰途につこうと出口に向かっていると、私を呼び止める声があった。ふり向くと、版画家のS さんだった。
 <石正美術館へ行くので、家まで送りましょう>と。
 
 S さんは、私の、持ち重りのする買い物袋に手を伸ばし、
 「クーラーの効かない、地球に優しい車ですけれど」
 と、言った。
 Sさんの車には、これまでにも数度乗せてもらっている。確かに、かなりくたびれた車である。
 窓を開けて走る。
 思いっきり夏の風と蝉時雨が入ってくる。
 「美術館にはどんな用?」
 「池田一憲を見に」
 私は、画家の名を繰り返し、
 「どんな画家なの?」
 と、尋ねた。
 「梅原猛に認められた人のようです」
 寡黙なS さんとの会話は、いつものことだが、会話が短く途切れがちである。
 「それなら、私も連れていってもらおうかしら」
 と言い、久しぶりに<石正美術館>を訪れることになった。(写真)
 S さんは、津和野にアトリエを構え、東京の住まいと津和野とを行き来している版画家である。もう40年余りのお付き合いになる。
 道中の会話で、美術館からの帰り、私の家に寄ってもらうことにしていたのだが、結局、池田一憲の絵を私も見、一緒に帰ることにしたのだった。

 この美術館には、日本画家、石本正の絵画が、いつも展示されている。何度か訪れてはいる。が、いつも人の車のお世話になっている。車を持たない者には、ちょっと不便な位置にあって、近い割には訪れる機会が少ない。

 この日は、池田一憲展だけを見ることにした。
 入り口を入ると、独特な雰囲気を漂わせた絵が並んでいる。
 なるほど、<この男、途方もない。>ということか。
 < >の言葉は、梅原猛の言葉で、池田一憲の絵に接したときの発語らしい。
 入り口に置かれたパンフレットの表にも、大きく記されていた。
 26点の作品には、この画家の強烈な心象が描かれている。具象でありながら見たままを描いたものではない。地霊の宿っていそうな、不思議な世界である。
 隣市、浜田の田舎に住み、農業の傍ら、仏教の勉強もしながら、絵を描いている人らしい。
 好き嫌いは別にして、一度見たら、忘れがたい作品であった。
 特に、一枚の絵の中で、今は亡き大佛文乃さんに再会したのは、驚きであった。大佛さんは詩人であり、かつて同じ同人誌の仲間だった人である。
 『おせん淵』は、彼女の代表的な詩集であり、その中の一篇の詩題でもある。
 その詩が、絵画化された作品であった。
 もう一つ、樹齢600年の「城山桜」を描いた、赤を基調にした作品にも心を惹かれた。
 昨年の春、知人の案内で、初めて見た桜であった。
 画家は、その絵に、<桜花の見事さばかりではなく、倒れかかった巨枝の、恐竜の首のような生々しさにひかれた。>と書き添えていたが、その言葉通りの老樹であった。<「……さくらの花は散ってはなやぐ」 この岡部伊都子先生の言葉を具現させるために苦心した。>とも、書いてあった。
 梅原猛、岡部伊都子の両氏とは、面識のある画家のようだ。
 池田一憲の作品を見ながら、梅原猛の『湖の伝説』で知った、早世の画家・三橋節子の絵をふと思い出した。
 絵画の姿勢のどこかに、相通じ合うものがあるような気がして……。 

 S さんの車で、家に引き返し、コーヒーを飲みながら、夕方まで話した。
 彼の、つぶやくような語りに肯きながら。

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