ずいぶん間抜けた話である。
今日、街へ出かけるついでに、銀行にも行き、今月分の生活費を下してこようと考えた。
そして、通帳探しが始まったのだった。
今日に限らず、もの探しは日常的で、認知症の入り口に立っているのではあるまいかと、不安を感じるほどだ。
ただ、貯金通帳ということになると、またかと、のんびり構えるわけにはゆかない。
慌てて、銀行に電話した。
「すぐ手を打ちましょうね」
と、私の心理状態とは異なる、落着いた返事が返った。
その声の主は、私のよく知る人であった。
さらに、
「紛失届を提出していただきますので、印鑑を持参して…」
とのことであった。
厄介なことになったと思いながら、バッグの中を繰り返し探した。
毎月、生活費を下さねばならないのだからと、ここ数か月はバッグに入れていたのだが…。
いくら探しても、やはりバッグの中にはない。
そのあと、まさか、本来の通帳置き場所に戻したのではあるまいな、と思いつつ、引き出しを開けた。
驚いたことに、そこに、通帳があったのだ。
これにはびっくり。
11月分の生活費を下した後、私は全く無意識に、以前の定位置に戻したらしい。
呆れてしまった。
取り急ぎ、通帳が出てきたことを銀行に伝えた。
「よかったですね」
と、喜んでもらえた。
それで万事終わるのかと思ったら、いずれにしても印鑑を持参のうえ、銀行に立ち寄ってくれとのこと。
がっかりしたが、私のそそっかしさが生んだ失敗だから、仕方ない。
街に出ると、まっ先に銀行へ行った。
すると、<紛失届>だけでなく、<発見届>なるものも書かされた。
呆れながら、呵々大笑!
老いの日々は、ただ笑い飛ばすしかない、愚かしいことに満ちている。
帰りのタクシーで、運転手と雑談しているうちに、老境が話題となった。
私は、失敗の処理をしてきたばかりなので、老いの愚かしさを話した。
すると、運転手は、私の主張を否定し、老いには、素晴らしい面もある、と力説された。
何が素晴らしいのか尋ねると、
「知恵です」
と、答えられた。
そうだろうか?
私自身をふり返ると、どう甘く自己評価しても、知恵が深まったとは言えない。
ただ、年を重ねなくては見えれない風景のあることだけは確かである。
それを楽しみながら、老いの日々を重ねるしかない。
思いもかけぬ自分に、日ごと出会いながら。
今日、街へ出かけるついでに、銀行にも行き、今月分の生活費を下してこようと考えた。
そして、通帳探しが始まったのだった。
今日に限らず、もの探しは日常的で、認知症の入り口に立っているのではあるまいかと、不安を感じるほどだ。
ただ、貯金通帳ということになると、またかと、のんびり構えるわけにはゆかない。
慌てて、銀行に電話した。
「すぐ手を打ちましょうね」
と、私の心理状態とは異なる、落着いた返事が返った。
その声の主は、私のよく知る人であった。
さらに、
「紛失届を提出していただきますので、印鑑を持参して…」
とのことであった。
厄介なことになったと思いながら、バッグの中を繰り返し探した。
毎月、生活費を下さねばならないのだからと、ここ数か月はバッグに入れていたのだが…。
いくら探しても、やはりバッグの中にはない。
そのあと、まさか、本来の通帳置き場所に戻したのではあるまいな、と思いつつ、引き出しを開けた。
驚いたことに、そこに、通帳があったのだ。
これにはびっくり。
11月分の生活費を下した後、私は全く無意識に、以前の定位置に戻したらしい。
呆れてしまった。
取り急ぎ、通帳が出てきたことを銀行に伝えた。
「よかったですね」
と、喜んでもらえた。
それで万事終わるのかと思ったら、いずれにしても印鑑を持参のうえ、銀行に立ち寄ってくれとのこと。
がっかりしたが、私のそそっかしさが生んだ失敗だから、仕方ない。
街に出ると、まっ先に銀行へ行った。
すると、<紛失届>だけでなく、<発見届>なるものも書かされた。
呆れながら、呵々大笑!
老いの日々は、ただ笑い飛ばすしかない、愚かしいことに満ちている。
帰りのタクシーで、運転手と雑談しているうちに、老境が話題となった。
私は、失敗の処理をしてきたばかりなので、老いの愚かしさを話した。
すると、運転手は、私の主張を否定し、老いには、素晴らしい面もある、と力説された。
何が素晴らしいのか尋ねると、
「知恵です」
と、答えられた。
そうだろうか?
私自身をふり返ると、どう甘く自己評価しても、知恵が深まったとは言えない。
ただ、年を重ねなくては見えれない風景のあることだけは確かである。
それを楽しみながら、老いの日々を重ねるしかない。
思いもかけぬ自分に、日ごと出会いながら。
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