上京前、何気なく見ていたテレビで、長野市に東山魁夷館があることを知った。
信州には幾度も旅しているけれど、長野市を訪れたのは、20歳代の遠い昔のことである。
人生最後の善光寺参りをし、東山魁夷館にも行ってみたいなと思った。
上京を機にというのは無理だろうか?
中央線経由で長野に行こうとすれば時間がかかりすぎる。
友人から、長野新幹線でゆく方法のあることを教えてもらった。
時刻表を調べると、東京からなら楽に往復できることを知った。片道1時間半あまり。
お天気さえよければ行ってみようと、大雑把なプランの中に長野行きを加えていた。
天気予報によると、6日の長野は晴れ模様である。
そこで、前日、横浜に出かける前に、長野新幹線の往復切符を求めておいた。
初めての路線を旅するときは、車窓に流れる風景との出合いも楽しみである。
近景遠景ともに、土地が変われば微妙に異なる趣を持つ。
終点の長野駅に着くと、観光案内所に行った。
長野に滞在できる時間と、ぜひ訪れたい二つの目的地を告げた。
観光マップが渡され、二つは、至近の距離にあることを知らされた。
料金100円分の区間をバスに乗って、善光寺前で下車した。
まずは、善光寺にお参りした。
元気でいれば、上京の機会はこれから先にもあるだろう。が、長野にもう一度ということは、まずなさそうな気がする。善光寺へのお参りも、多分最後になるだろう。そんな思いで、古刹・善光寺に詣でた
手を合わせ、何かを念ずるというより、ここまで生かしてもらったことに感謝する。
東山魁夷館の方角に歩いている途中で、二基の句碑に出合った。
小林一茶(1763~1827)と種田山頭火(1882~1940)の句碑である。
春風や牛に引かれて善光寺
開帳に逢ふや雀も親子連
一茶
八重ざくらうつくしく南無観世音菩薩像
すぐそこで したしや信濃路のかっこう
山頭火
旅には、こうした思いがけない出合いもある。
一茶の句碑
山頭火の句碑
善光寺と程近い位置に、城山公園がある。
噴水の手前に佇むと、信州の山並みが見えた。
山も空も、空気も、すべてに信州の匂いがする。
東山魁夷館は、長野県信濃美術館の分館である。
ここは、東山魁夷個人の作品を所蔵する館である。
東山魁夷は好きな画家の一人で、今までにも、規模の大きな展覧会を神戸や京都で見た。
現在、当館では、「創作の秘密 ― 作品のできるまで ―」と題した展覧会が開催中だった。
作品が完成されるまでの綿密な準備のプロセスが示されていた。そこに、画家の創作に対する心の姿勢を見ることができた。
鑑賞の後、ひとときカフェにくつろいで、コーヒーをいただいた。
4時過ぎの新幹線で、帰途に着いた。
初冬の空は暮れやすく、一期一会の思いで、暮れゆく信州の夕空を車窓に眺めた。