ぶらぶら人生

心の呟き

ツバメの巣立ち

2006-06-04 | 身辺雑記
 昨日見たツバメの巣を、今日(6月3日)も、訪ねてみた。散歩がてらに。
 想像していたとおり、巣は空っぽだった。三羽とも、無事に巣立ったのだろうか。

 昨日、親ツバメが、餌を与えることもせず、巣の周りを旋回して、そのまま行ってしまったのは、子ツバメに巣立ちを促したのかもしれない。
 「もう あんたたち、自分で餌を探すのよ。飛びたてるから、 さあ 頑張って!」
 親ツバメのそんな激励の言葉を受けて、巣の中が騒然となったのではあるまいか。それまで、お行儀よく、巣の中で体をくっつけあっていた三羽の子ツバメが、急に慌しく動き始めた。狭い巣の中で、バタバタするから、落っこちるのではあるまいかと、私は心配した。が、ツバメにはツバメの習性が、幼いながら身についているのだろう。
 まず一羽が、巣から出て、テントの支えの、細い突っ張りの線に止まり、次いで二羽目が同じように、やや危なっかしい様子で、巣を出ると、すぐ傍の線に並んで止まった。見るからにたどたどしげな様子で、方向を変えたと思うと、また元の方向に向きを変え、二羽が頭を揃えて並んで止まった。
 一羽だけが、巣の中で気後れしたように、落ち着かぬふうであった。
 「僕も、飛べるかなあ」
といった心境のように見えた。

 昨日のツベメとのお付き合いは、そこまでだった。
 その後を見届けないで、私は帰途についた。道々、<あれは、巣立ち直前の姿だったのではあるまいか>、そんなふうに思いながら……。今頃、すでに巣は空っぽになっているのかも知れない……とも、考えながら。

 予想通り、今日、巣にツバメの姿はなかった。無事巣立ったのだろう。なんの確証もないが、そんなふうに思った。巣の中で、気後れしていた最後の一羽も、他のツバメに促されるようにして、巣を離れたに違いない。
 今日は、晴たり曇ったりのお天気だが、六月にしては、風が冷たい。ぬくぬくと体を寄せ合っていた子ツバメにとって、この冷たさはこたえないだろうか。
 親の、そして兄弟の絆は、巣立ちの後も、続くのだろうか。それとも、一旦巣を離れると同時に、完全なひとり旅が始まるのだろうか。

 「お父さん、こんにちは!」
 「おお、元気かい?」
 「お母さん、ぼく頑張ってるよ!」
 「いい子だね。お母さんが見守ってるからね」
 ツバメ語で、そんな親子の会話がなされるのかどうか。

 「おまえ、虫捕れたか」
 「ダメダメ、また失敗しちゃったよ」
 「頑張ろうぜ!」
 兄弟のツバメ同士の間では、そんな微笑ましい会話が交わされるのかどうか。

 私は空を見上げる。
 巣のあるテントの上空を、幾羽かのツバメが滑空している。電線に止まったのもいる。昨日まで巣に居たツバメかどうかの見分けはつかない。が、きっと私の眼にとまった幾羽かのツバメの中に、巣立ちしたばかりの子ツバメもいるに違いない、そう信じたい思いだ。
 生涯のスタート点に立ったばかりの子ツバメに、「前途,平安!」と、中国語の、たどたどしい発音で言ってみる。生涯の無事を祈り、巣立ちのツバメを眺める、そんなお節介で暇な老女が佇んでいることなど、ツバメには無関係なことかもしれない。
 嗚呼!
コメント
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